ビッグデータとは、その言葉通り「規模が非常に大きなデータ」を指します。ここでは企業での活用事例を紹介しながら、その可能性や注意点について分かりやすく解説しています。
- ビッグデータとは
- 活用の身近な例
- ビッグデータの特徴
- ビッグデータの活用事例15選
- 活用事例①Amazon「売上の約35%はレコメンド機能から」
- 活用事例②Netflix「レコメンド機能による驚異の視聴率」
- 活用事例③楽天「更新頻度と表示方法の変更で売上増大」
- 活用事例④ローソン「ヘビーユーザーを逃さない戦略」
- 活用事例⑤スシロー「徹底したデータ分析で廃棄を75%カット」
- 活用事例⑥ダイドードリンコ「視線のデータ化で陳列変更」
- 活用事例⑦ミツカン「ビッグデータで新たな顧客を発掘」
- 活用事例⑧ニトリ「画像検索機能で顧客のニーズに対応」
- 活用事例⑨True&Co.「オンラインでも身体に合う下着の選択が可能に」
- 活用事例⑩GEO「熟練スタッフでも気づかない相関関係の発見」
- 活用事例⑪ホンダ「都市計画から防災・減災までフル活用」
- 活用事例⑫あいおいニッセイ同和損保「運転の質を可視化で事故率減少」
- 活用事例⑬大阪ガス「蓄積データを活かして故障原因を推測」
- 活用事例⑭ベネッセ「AIを用いた学習で正解者の割合アップ」
- 活用事例⑮CITIC銀行(中国)「データ活用でクレジットカードの承認率3倍」
- ビッグデータ分析のポイント
- 分析にはどんな手法がある?
- 社会のトレンドを押さえよう
ビッグデータとは
ビッグデータとは、人が全体像を把握することが困難なほど規模の大きいデータの集まりです。 管理や分析は容易でないものの、従来のデータでは発見できなかった傾向や関連性を見出したり、人々の生活に役立てられたりします。
例えばコロナ禍では、ニュースで「人流」という言葉が頻繁に使われていました。人流は膨大なスマートフォンの位置情報(GPS)データをもとに把握されており、将来的な感染者数の予測や経済活動の指標として活用されていました。
活用の身近な例
人流のデータ以外にも、以下のようにビッグデータは日々多くの場面で活用されています。
- ネットショッピングでのおすすめ商品の表示
- SNSでのユーザーに合わせた広告の表示
- 気象データを活用した店舗での販売予測
- GPSの位置情報による交通状況の把握や渋滞緩和
例えばAmazonや楽天市場で商品を購入すると、一緒に購入されることの多い商品などが紹介されます。これは、他のユーザーの膨大な購入履歴から「商品Aを購入する人は商品Bも好む傾向がある」と分かっているからです。
ビッグデータの特徴
一般にビッグデータは、以下の「3つのV(=3V)」の特徴を備えています。
- 大きいデータ量(Volume)
- 高い更新頻度(Velocity)
- データの種類が多様(Variety)
さらに近年では、「正確性(Veracity)」「価値(Value)」を加えた5Vがビッグデータの特徴と言われることもあります。
ビッグデータの活用事例15選
ここからは、ビジネスの場面でビッグデータがどのように活用されているか、15社の事例をご紹介します。
活用事例①Amazon「売上の約35%はレコメンド機能から」
EC業界最大手のAmazonが力を入れているのは、身近な例でもご紹介した「おすすめ商品」の機能。これはレコメンド機能といい、ユーザーの閲覧履歴や購入履歴のデータをもとに生成されています。
Amazonのサイトを見ると、トップページから「もう一度買う」「おすすめのセール」「あなたにイチオシの本」など多数の商品が表示されます。さらに商品ページを閲覧すれば「Amazonブランドの類似商品」「よく一緒に購入されている商品」など、とにかくレコメンド機能の種類が多いです。
現在では、Amazonの売上の約35%がこのレコメンド機能から生み出されています。
参考:LinkedIn「How Amazon generate 35% of their revenue」
活用事例②Netflix「レコメンド機能による驚異の視聴率」
レコメンド機能が活用されているのは、ショッピングサイトだけではありません。Netflixでも、ユーザーの好みに合わせた映画やドラマなどのレコメンド機能を搭載しています。
Netflixのデータ活用で特に優れているのは、ユーザーの好みに合わせて「表示するコンテンツの画像」を変化させている点です。同じ作品を勧める場合でも、恋愛モノを好むユーザーには恋人同士の画像を、コメディを好むユーザーにはコメディアンの画像を表示するなどして、ユーザーの興味関心を引いています。
Netflixでは、今や全体の80%がレコメンド機能を通じた視聴です。
参考:jintec「ネットフリックスの強みの本質と『つながりの市場』」
活用事例③楽天「更新頻度と表示方法の変更で売上増大」
日本企業の中でも屈指のビッグデータを有する楽天。同社もレコメンド機能に注目し、その中でも売れ筋商品を表示する「楽天プロダクトランキング」の改善で大きな成果を上げました。
データ分析の結果、売上は「ランキングの更新頻度の高さ」「ジャンルの細かさ」によって変化すると判明。ランキングの更新頻度をリアルタイム化し、商品ジャンルを300から8,000まで細分化したところ、ニッチな商品も含めて売上を向上させることができました。
参考:店舗力向上プロジェクト「楽天の執行役員がビッグデータでEコマースの売上げを急伸させた秘策を公開 」
活用事例④ローソン「ヘビーユーザーを逃さない戦略」
ローソンはデータ分析をもとに、特定商品のヘビーユーザーを逃さないような戦略を立てました。
例えば「ほろにがショコラブラン」は、2013年ごろ菓子パンの中で売上順位が30位前後の商品でした。販売終了でもおかしくない商品だったものの、データ分析により同商品は一部の消費者から頻繁にリピートされていると判明。こうした商品が一時でもなくなれば、リピート客を逃すことになります。
ローソンはFC店向けに発注の目安となる「商品力指数」を示していましたが、この基準にリピート率を採用。ヘビーユーザーが多い商品について、品切れを起こさないよう工夫しました。
参考:PRESIDENT Online「ローソン『31位の菓子パンを売り続ける理由』」
活用事例⑤スシロー「徹底したデータ分析で廃棄を75%カット」
スシローでは、データ管理システムが「1分後」「15分後」の需要を予測し、そのデータをもとにネタを提供。緻密なデータ管理により、システム導入前に比べて廃棄量が75%も減少しました。
データ収集に使っているのが、皿の裏に装着したICチップです。これによって寿司の鮮度管理や、ネタが手に取られるまでの時間把握が可能になりました。さらに、入店時には顧客の人数や属性も把握しているので、属性などに応じたネタの選別も可能です。
集まるデータは店内の飲食だけでも年間10億件ほど。膨大なデータの解析とリアルタイムでの管理がスシローの営業を支えています。
参考:日本経済新聞「スシロー、ビッグデータ分析し寿司流す 廃棄量75%減」
活用事例⑥ダイドードリンコ「視線のデータ化で陳列変更」
大手コーヒー飲料メーカーのダイドードリンコは、ビッグデータをもとに自動販売機での陳列方法を変更しました。
同社はかつて「人の視線は左上からZを描くように動く傾向がある」というZの法則から、主力商品を自動販売機の左上に陳列していました。しかし人々が商品を選ぶ際の視線の動きをデータとして集めたところ、自動販売機では下段に視線が集まることが判明。主力商品を左下に陳列し直した結果、売上が増加しました。
活用事例⑦ミツカン「ビッグデータで新たな顧客を発掘」
ミツカンでは、長年マーケティング活動の対象を女性に絞っていました。しかしビッグデータの分析から、キャンプで鍋を作る需要があること、またこのシーンにおいては男性の検索が多いことが分かりました。
一般的な市場調査を行う場合、ターゲットとして想定していない人々の動向を調査するのは難しいです。しかしデータ分析であれば、こうした「想定していない顧客」の発見も可能です。ミツカンはその後、男性向けの商品としてキムチ鍋のつゆのテレビCMも制作しています。
参考:AdverTimes「『鍋つゆ』は男性もターゲット? ビッグデータ解析でこれまで見えなかった顧客が見える」
活用事例⑧ニトリ「画像検索機能で顧客のニーズに対応」
ニトリは自社アプリに画像検索機能を追加し、顧客のニーズに対応するとともに、従業員の負担軽減も実現しました。
ニトリの顧客では「画像をもとに商品を探したい」というニーズが強く、店舗でも「こういう商品を探している」と画像を提示されることが多かったそうです。そこで、5.8億人のビッグデータで学習をしたアリババ社の画像検索エンジンの導入を決定しました。
画像検索では、消費者が撮影した家具や雑貨の類似商品を一覧にして表示するため、レコメンド機能の役割も備えていると言えます。
参考:ECのミカタ「ニトリ O2O戦略の実践!『画像検索』でお客様の買い物体験を変える。」
活用事例⑨True&Co.「オンラインでも身体に合う下着の選択が可能に」
True&Co.は女性用下着を取り扱う会社です。同社では、複数の質問に回答することでユーザーに合ったブラジャーを自動選択してくれるシステムを構築しました。
女性の下着はメーカーによって少しずつサイズが異なり、胸の形状によってもフィットするサイズが異なります。そこでTrue&Co.ではブラジャーのサイズのバラつきや、女性の胸の形状に関して細かなデータを取ることで、オンラインでもユーザーに合ったブラジャーを選択できるようにしました。
参考:Forbs「From Bain To Busts: How Michelle Lam, Founder of True&Co. Parlayed Big Data To Bras」
活用事例⑩GEO「熟練スタッフでも気づかない相関関係の発見」
GEOは、SAPジャパンが提供するビッグデータ分析ツールを活用して顧客の嗜好などを調査しています。登録会員の情報を分析することで、熟練スタッフの知識では分からなかった相関関係が見えるようになったそうです。
例えば、それまでは「商品Aを借りる人は商品Bも借りる傾向がある」という事実が分かっても、その要因までは掴めないことがありました。しかしビッグデータの分析では「共通して出演している声優や俳優がいる」といった相関関係の詳細が把握できます。
GEOではこうした分析結果を、お勧め商品の割り出しなどに活かしています。
参考:SAPジャパン「ゲオホールディングスの取り組みから見える、現場の経験を加味したビッグデータ活用の秘訣とは」
活用事例⑪ホンダ「都市計画から防災・減災までフル活用」
自動車メーカーのホンダは、ビッグデータを活用したサービスとして「Honda Drive Data Service」を提供しています。2020年2月時点で440万台もの車の動きをデータ化しており、データそのものの更新も最短5分とほぼリアルタイムで行われています。
このサービスは、人々が最新の交通情報を取得できるだけでなく、都市開発などにも役立っています。例えば混雑の原因を見極めることで、「新たな道路が必要なのか」という道路建設の検討に活かすことができます。
東日本大震災では被災地周辺の通行可能道路の情報を無償公開し、人々の移動や支援物資の輸送にデータが活用されました。
参考:HONDA「『自動車×ビッグデータ』 まちづくり・防災に活かすクルマのデータとは」
活用事例⑫あいおいニッセイ同和損保「運転の質を可視化で事故率減少」
あいおいニッセイ同和損保では、運転の安全度の高さに応じて保険料を算定するテレマティクス自動車保険のサービスを展開しています。同社の通信機器とスマートフォンアプリを活用し、走行データを記録することでドライバーの運転を評価します。
このサービスではアクセルやブレーキのかけ方といった運転の質が、ビッグデータとAI技術をもとにスコアとして可視化されます。ドライバーも保険料の割引に向けて意識的に安全運転を心がけることができ、加入者の事故発生頻度も14%ほど減少しています。
参考:あいおいニッセイ同和損保「テレマティクス自動車保険のお客さま満足度が 99.3%を獲得! 」
活用事例⑬大阪ガス「蓄積データを活かして故障原因を推測」
大阪ガスは、1990年代からデータ分析に力を入れている企業です。現在は専門のビジネスアナリシスセンターを備え、データ分析によって社内の課題解決を行っています。
例えば給湯器の修理に関しては、過去にあった給湯器設備の故障と修理の蓄積データをもとに、修理対応の迅速化を実現しています。顧客の電話相談の内容から故障部品を予測するシステムを構築し、メンテナンス担当は予め部品を用意して顧客先を訪問。修理のための再訪問が減少し、業務の負担軽減に繋がっています。
参考:ダイガスグループ「Interview Report 現場を強くするデータサイエンティスト集団」
活用事例⑭ベネッセ「AIを用いた学習で正解者の割合アップ」
学力の向上には、一人ひとりの学習状況や得意不得意に合わせたサポートが必要です。ベネッセは、同社が有する膨大なデータをもとに学習アプリ「AI StLike」を開発しました。
このアプリには、学習者の理解度や苦手分野を分析してAIが問題を出題する「AI問題演習」などが搭載されています。アプリの利用前後では特定の問題に対する正解者の割合が変化し、学習から1ヶ月後の正答率も高い水準を維持できることが分かっています。
参考:ベネッセ「ビッグデータの利活用で一人ひとりが自ら学び続けられる世界を実現。」
活用事例⑮CITIC銀行(中国)「データ活用でクレジットカードの承認率3倍」
中国のCITIC銀行は、クレジットカードの承認率の改善を目標としてビッグデータを活用しました。
クレジットカードの発行審査にあたって、同行はSNSなどオンライン行動履歴のデータを分析。顧客の購買習慣を推測し、顧客のリスレベルや信用度の評価を適正化しました。
これによってカードの承認率は約25%から70〜80%にも上昇。クレジットカードの発行枚数が大幅に増加し、新規顧客の獲得に繋がりました。
参考:総務省「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究の請負報告書」
ビッグデータ分析のポイント
企業の活用事例から分かるように、ビッグデータを活用すれば顧客の獲得からコスト削減まで、様々な効果を得られます。しかし量が膨大で複雑だからこそ、ビッグデータの分析は容易ではありません。分析には以下のような注意が必要です。
- セキュリティ対策を徹底する
- 分析の目的を明確化し、必要なデータを抽出する
- データの重複や、正確性のないデータなどに注意する
ビッグデータには、個人情報が含まれることも多いです。そのため利用には細心の注意を払う必要があります。また多様なデータが集まっているからこそ、目的の達成に向けて必要な情報を絞り、「分析の可能性を狭めすぎない」ことも重要です。
さらに、収集したデータが必ずしも「正確である」とは言い切れません。例えばアンケートなどでは、「回答者が本心より過大評価してくれている」といったケースもあります。データの質に留意しなければいけない点も、データ分析ならではの難しさです。
分析にはどんな手法がある?
ビッグデータの分析には、様々な手法が使われます。ここでは一部の例をご紹介します。
分析手法 | 特徴 |
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クロス集計 |
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ロジスティック回帰分析 |
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アソシエーション分析 |
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クラスター分析 |
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決定木分析 |
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主成分分析 |
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社会のトレンドを押さえよう
ビッグデータの分析を社内で行うのは、決して容易ではありません。「面白そう」「企業の役に立ちそう」と思っても、実践するには専門知識や分析の環境が必要です。
しかしながら「ビッグデータ」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」など、社会のトレンドを押さえることは非常に重要です。こうした事柄に無知でいると、自分自身も企業も世の中に取り残されてしまいます。そうならないためにも、日頃から社会の動きやトレンドについて情報収集をしましょう。
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