バイサイド転職の現実|年齢と思考で分かれる「行ける人・行けない人」
認知度の高まりとともに、転職志望者が増加しているバイサイド市場。しかし、実際は「行きたい」という思いだけでは通用せず、年齢や思考によって難易度は大きく変わる。
本記事では、バイサイド転職の現実と求められる考え方について、株式会社アクシアム代表取締役の渡邊光章氏に解説していただいた。
※内容や肩書は、取材を行った2026年5月時点の情報です。
<Profile> 渡邊 光章(わたなべ・みつあき)
株式会社アクシアム 代表取締役 / エグゼクティブ・コンサルタント。大阪府立大学農学部生物コース卒業。コーネル大学 Human Resource Executive Development Program修了。留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントへ転身。1993年に株式会社アクシアムを創業、30年以上にわたり多くの人々の最適な出会いを創出することで、キャリア価値と企業価値の最大化に取り組む。また、「展職」をキーワードに多数の企業経営者採用あるいは次世代経営者となるポテンシャル採用で実績につなげ、持続可能なキャリア形成の実現化、顧客企業の発展と社会の発展に寄与。VUCA時代を迎え、キャリア・企業・社会のいずれにおいてもサステナビリティが揺らぎつつある今、キャリア発展を実現した方々や顧客企業で活躍中のキャンディデイトのネットワークを力として「展職」支援を継続中。著書『転職しかできない人 展職までできる人』(日経人材情報)。
「バイサイドに行きたい」という考えの落とし穴
バイサイドの実務や実態は、この10年ほどで広く知られるようになりました。私は転職エージェントとして30年以上この業界を見ていますが、近年は先輩などから情報を得て転職を検討する人も増えています。
一方、認知度が高まる中で「バイサイドに行きたい」という思いが先行し、入社自体をゴールにしてしまうケースもかなり増えました。
キャリアにおいて時間は限られており、特にバイサイド転職は何歳でも同じように挑戦できるわけではありません。
今回は、皆さんに後悔のないキャリアを歩んでいただくために、PE(プライベートエクイティ)・VC(ベンチャーキャピタル)・HF(ヘッジファンド)・AM(アセットマネジメント)といった投資領域の違いとバイサイド転職で押さえるべき前提・現実、そしてキャリアの考え方について解説します。
バイサイドの仕事は投資領域ごとに異なる
バイサイドと一口に言っても、投資領域ごとに求められる役割や意思決定の軸は異なります。最近は「VCとHFに同じ動機で応募する」といった人も見られますが、これは魚屋に野菜を買いに行くようなものです。
ここでは、各投資領域ごとの違いを整理していきます。
| 観点 | PE | VC | HF | AM |
|---|---|---|---|---|
| 投資対象 | 成熟企業 ※未上場中心、時に上場 |
スタートアップ ※未上場・アーリー〜グロース |
上場株・債券・デリバティブ等 | 上場株・債券・不動産・マルチアセット |
| 投資期間 | 中長期 ※3〜7年程度 |
長期 ※5〜10年超も多い |
短期〜中期 ※数日〜数ヶ月が中心 |
中長期 ※多くは数年単位 |
| 投資先との関わり方 | 深く関与 ※経営改善・戦略支援・場合により経営陣入替 |
間接的支援 ※経営助言・ネットワーク提供、基本は創業者主導 |
基本関与なし ※市場で売買 |
間接的・限定的 ※議決権行使・エンゲージメントなどはある |
| 意思決定の軸 | 企業価値向上の実現可能性 | 将来成長のポテンシャル | 市場価格の歪み・タイミング | リスク調整後リターンの安定性 |
※PI、CVC、オルタナティブ投資ファンド、アクティビスト、ファンドオブファンド、あるいはPEとVCの中間のような形態のPEもあります。また、投資期間は個々のファンドによって大きく異なります。
投資領域ごとの違いは業務内容の差にとどまらず、「求められる価値観」そのものも違います。
たとえば、PEやVCは企業や事業に深く関わるため、経営者と同じ目線で意思決定を行う姿勢が求められます。一方、HFやAMは市場を相手にする仕事であり、価格やリスクに対する感度、スピード感のある判断が重視されます。
この違いを理解していないと転職自体が難しくなり、仮に転職できたとしてもミスマッチにつながります。厳しく言えば、「興味がある」だけでは生き残れない世界です。
昨今のバイサイド転職の市況について話すと、現状は求人数の増加以上に志望者数が増えています。バイサイド市場は、この10年で大きく拡大しました。昔はPEやVCのクライアントが10社ほどしかありませんでしたが、現在は約50社に増え、求人の数もそれだけ多くなっています。一方で、志望者の数は10年前と比べて約20倍ほどに膨らんでいる印象です。
「とりあえずバイサイド」といった温度感の志望も多く、ハードスキルが要件に合致している人は、体感で全体の10%程度です。
求人数以上に志望者が増えている点で、マッチングの可能性は以前より低くなっています。さらに言えば、昔に比べてバイサイドの仕事をきちんと理解している人は増えています。競争は「より厳しくなっている」と考えたほうがよいでしょう。
バイサイド転職で見られているものとは
バイサイド転職では、スキルや経歴だけでなく、複数の観点から総合的に評価されます。ここでは、志望者が見落としがちなポイントを整理します。
ハードスキルは前提条件、差がつくのは「仕事の理解度」
バイサイド転職で、一定のハードスキルや経験が求められることは事実です。多くの場合、投資運用の現場では体系的な研修が用意されておらず、入社後はOJTや実務を通じたキャッチアップをしていくことになります。
一方で、「仕事の理解度」はハードスキル以上に重要です。どのような業務を行い、何を求められるのか理解できている人材は、高く評価されます。
特に職歴10年くらいまでの場合、スキルや経験が少し足りなくても、業務の中身を具体的にイメージできていれば、採用の可能性があります。ただし、不足分を埋める強い意志と、それを裏付けるような資格取得といった行動が必要です。
こうした認識は、選考対策や準備の方向性にも直結します。たとえば、VCの志望者でモデリングを必死に勉強していた人がいました。実際は、VC対策でモデリングの優先度は高くありません。このように、仕事の理解が浅いと努力の方向性すらズレてしまうことがあります。
PEやVCで見落とされがちなのが「採用のタイミング」です。基本的にはファンドレイズのタイミングで増員することが多く、定期採用を行っているケースはほとんどありません。募集が出たタイミングですぐに動けるように、スキルや経験の蓄積、書類や面接などの対策は早くから行いましょう。また、現職から移るタイミングをある程度コントロールできる準備も重要です。
重要性が高まっている「大局観」
ハードスキルや業務理解に加えて、現在のバイサイド転職では「大局観」が求められています。近年は金融市場や産業構造が激しく変化しており、バイサイドはこうした環境の中でリスクと向き合ってリターンを生み出さなければいけないからです。
たとえば、応募先の投資哲学や方針を踏まえたうえで、パートナーや経営者と同じ問題意識で投資を語れる志望者は高く評価されます。「今の産業構造を踏まえると、この分野に資金が集まる可能性が高い。私はここに関わりたい」と説明できれば、採用側にとって非常に魅力的です。
特に、PEとVCは事業会社の経営に積極的に関わる度合いが大きいので、大局観の有無が評価に直結しやすい領域といえます。
この数年、バイサイド市場では従来の「こういう人が採用される」というパターンが崩れています。以前は募集要項や過去の採用事例から、採用される人材をある程度予測できました。一方、現在は採用ニーズが流動化し、想定通りに採用が決まらないケースが増えています。その背景にあるのが、コロナ禍以降に続く不確実性の高まりです。地政学リスクや市場環境の変化から、投資判断が短期間で変わる状況が常態化しました。
そのため、短期間で求める人物像が変わったり、従来とは異なるバックグラウンドの人材が採用されたりするケースが増えています。
こうした環境では、大局観の有無がより重要です。直近1〜2週間の情勢変化は、求人情報や企業サイトに反映されません。その中で変化をきちんと捉え、自分なりの視点で語れる人材は評価されやすいです。
「にじみ出るスタンス」が評価を分ける
PEやVCの採用では、人間性やスタンスも重要視されます。投資先の経営者や事業責任者と密に関わる仕事であり、「この人と一緒に仕事がしたい」「信頼して任せられる」と思ってもらえることが大切だからです。
人付き合いに長けており、エレベータートークで「もっと話したい」と思わせられる人は、採用確度が高いといえます。あるVCの代表は「空港で隣に座って、自然と会話したくなる人であれば採用する」と話していました。
反対に、人付き合いが苦手な人や、「バイサイドは高度な知識が求められる特別な仕事」「起業家や経営者を選別する立場」といったスタンスがにじみ出ている人は、不採用になることが多いです。たとえレジュメや経歴が優れていても、地頭が良くても、評価にはつながりません。
バイサイド転職で押さえるべき「現実」
バイサイド転職では、仕事内容の理解だけでなく、前提となる働き方や制約も押さえておく必要があります。ここでは、バイサイド転職で見落とされがちな現実を整理します。
短期転職前提では評価されにくい
バイサイドは専門性の高い少数精鋭組織です。加えて、投資期間やスキルの特性からも長期的に(少なくとも10年)コミットできる人材が求められます。「キャリアの一過程として短期的に経験したい」「ミスマッチがあれば他に移ればいい」といった考えでは評価されにくいです。
さらに、バイサイドでは契約上の制約も存在します。オファー時の書類には同業他社への転職制限が明記されているケースが多く、一般的に退職後1〜3年程度は移ることができません。
実は高い職業倫理観も必要
バイサイドは扱う金額が大きく、情報の取り扱い一つでリスクにつながります。そのため、事業会社やコンサルティングファームと比べてコンプライアンスが厳しい世界です。
たとえば、外資系や大手の組織では、オファー時に詳細な契約書(コントラクトペーパー)への署名が求められることがあります。そこには、兼業禁止や同業他社への転職制限など、組織やステークホルダーを守るためのルールが明記されています。契約書がない場合でも、これらのルールは暗黙の了解として求められます。
しかし、志望者の中にはコンプライアンスをあまり意識していない人も多いです。オファー前の説明で「この文章の意味は?」「なぜこれがダメなの?」といった質問が出ることもあります。コンプライアンス意識の低さが伝わると、最終オファー直前でも採用が見送られるケースがあります。
バイサイドでは、ルールを守るだけでなく、自身の言動が与える影響や責任の重さを理解していることが不可欠です。
バイサイド転職における年齢の意味とは
バイサイドは、何歳でも挑戦できるものではありません。そのため、自身の年齢やこれまでの経験を踏まえたキャリア設計が欠かせません。
バイサイド転職は年齢で難易度が変わる
転職では即戦力としてのスキルや経験が求められやすく、バイサイドでも投資銀行やコンサルティングファームでの経験は評価されやすいです。一方で、こうした経験があれば何歳でも転職できるわけではありません。
たとえば、事業会社の営業職を務める32歳(職歴10年)の人がいたとしましょう。バイサイドを目指したいとエージェントに相談すると、「今は難しいから、一旦コンサルに転職してはどうか」と言われることがあります。その後、懸命に努力して35歳でコンサルティングファームに転職。3年後、38歳で再びバイサイドに挑戦しようとします。
しかし、バイサイドの世界では、40代になるとマネジメント側として働くのが一般的です。「38歳(職歴15年)でアソシエイト」は現実的ではなく、選考通過は極めて厳しいのが実情です。
転職、特に未経験からの挑戦では、バイサイドに限らず年齢・職歴で難易度が大きく変わります。ただし、「38歳は挑戦すべきでない」というわけではありません。次の項目で、年齢ごとの難易度と考え方を整理します。
年齢ごとに見るバイサイド転職の難易度
年齢ごとでのバイサイド転職の難易度(目安)をまとめると、大まかには以下の通りです。
| 年齢の目安(職歴) | バイサイド転職の難易度 |
|---|---|
| 〜28歳頃 (職歴5年以内) |
業界・職種未経験でも、資質があれば通過の可能性がある |
| 〜32歳頃 (職歴10年程度) |
業界・職種経験など、専門性や実績が求められる |
| 〜38歳頃 (職歴15年程度) |
即戦力としての貢献が前提となる |
一般的に、35歳頃まではキャリアへの投資がしやすい時期です。現職でのキャリアアップやMBA取得、投資銀行・コンサルティングファームでの実績・経験の獲得など、キャリア資産を形成してバイサイド転職を目指してもよいでしょう。
一方、38歳以降はキャリアを運用していく段階であり、転職も実績重視となります。
そうは言っても、「バイサイド転職の可能性がゼロ」とは言い切れません。また、実際に挑戦することで、自身の現在地や現実的な選択肢が見えてくるケースもあります。だからこそ、私としては38歳でも「まず挑戦してみること」をおすすめします。
バイサイド転職では自分自身へのDD(デューデリジェンス)が重要
バイサイドで活躍している人は、自らのキャリアを他人に委ねません。転職を「キャリアへの投資」と捉え、環境や機会を見極めたうえで意思決定しています。
転職は「将来への投資判断」
転職では、目の前の環境を変えること自体がゴールになってしまうケースが少なくありません。しかし、転職とは人生をかけた意思決定であり、より長い未来を見据えた「投資判断」と考える必要があります。
たとえば、本来は5年で到達できるはずの目標も、転職を繰り返すと10年かかってしまうことがあります。一直線に進めば最短で到達できるところを、回り道を重ねてしまうイメージです。
加えて、転職には環境への適応や人間関係の構築といったスイッチングコストが伴います。さらに、バイサイドの場合は同業他社への転職制限もあり、短期での転職は現実的ではありません。
バイサイド転職で成功している人の多くは、目の前の選択ではなく、より長期的な視点でキャリアを設計しています。つまり、自身のキャリアに対して人生の投資戦略を描いている、しかも入口戦略のみならず出口戦略も描いています。自身のこれまでのスキルや経験値を客観的に理解し、未来のバイサイドのキャピタリストとして出口戦略まで描いています。
もしスキルや経験が不足していれば、求人への応募前に短期間に独学をしてでも補っています。しっかりキャリアのDD(デューデリジェンス)を行い、対策し、投資先としての妥当性を見極めたうえで転職という意思決定をしているのです。
自分自身へのDD(デューデリジェンス)の行い方
では、自分自身へのDDはどのように行えばよいのでしょうか。具体的には、以下のステップで整理していくのがおすすめです。
- 学歴・職歴をファクトベースで整理する(=現在地を正確に把握する)
- 10年後にどのような意思決定をしたいかを言語化する
- 現時点で不足しているスキル・経験を特定する
- そのために必要な経験・環境を逆算する
自分だけでDDを行うのは容易でないため、エージェントなど専門家と対話するのも有効です。レジュメをもとに1時間ほど話すだけでも、現状や将来の方向性、不足している要素が見えてきます。
その際に大切なのが、「10年後はどうなっていて、自分は何をしていたいか」を言語化することです。重要なのは、将来を正確に当てることではなく、不確実な前提の中でも自分なりの仮説を持ち、意思決定できるかどうかです。バイサイドでも、10年後に投資判断をしたいのか、経営判断をしたいのか、あるいは両方に関わりたいのかで、必要なスキル・経験やキャリアの築き方は大きく変わります。しかし、多くの人は10年後の自分の在り方に対する解像度が低く、言語化ができていません。
きちんとDDを行い、ストレートで10年以上コミットできる企業に出会えれば、それはとても幸せなことではないでしょうか。
キャリアは意思決定の積み重ねで決まる
現在は環境の変化が激しく、これまでの延長線上ではキャリアを描きにくい時代です。一方で、人や資本の流れが変わることで、新しい機会も確実に生まれています。
VUCA時代の今だからこそ、キャリア設計では自分の年齢や職歴と向き合いつつ、未来について仮説を立て、意思決定を重ねていくことが大切です。その先には、変化に強い経営者やイノベーター、あるいは次世代マネジメントリーダーといった人材として活躍できる機会も広がっています。
20代、30代は人生に一度きりで、時間を戻すことはできません。「時間」という資本をどのように投資するか考え、自らのキャリアを切り拓きましょう。人生の投資先は、新卒や第二新卒の頃なら「まだわかっていなかった」と言えますが、「知らなかった」とは言えないのが28歳以上です。28〜38歳あたりまでの1年間の時間の重みは、はるかに大きいです。人生のROI(投資対効果)は、この頃のたった1年や2年でも将来を大きく左右します。「何を選んだか」が最も問われ、レジュメ上も大きな意味をもって生涯残ります。
大きな変化が起きている時代にあっては、自分が本当にやり遂げたい志や覚悟をもった挑戦は、たった1〜2年でも、何十年の経験を上回る価値をその人にもたらすこともあります。そのようなキャリアの選択や意思決定の積み重ねが、納得できるキャリアと、結果としてのバイサイド転職につながっていくはずです。
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渡邊 光章(わたなべ・みつあき) 株式会社アクシアム 代表取締役 / エグゼクティブ・コンサルタント 大阪府立大学農学部生物コース卒業。コーネル大学 Human Resource Executive Development Program修了。 留学カウンセラーを経て、エグゼクティブサーチのコンサルタントへ転身。1993年に株式会社アクシアムを創業、30年以上にわたり多くの人々の最適な出会いを創出することで、キャリア価値と企業価値の最大化に取り組む。 また、「展職」をキーワードに多数の企業経営者採用あるいは次世代経営者となるポテンシャル採用で実績につなげ、持続可能なキャリア形成の実現化、顧客企業の発展と社会の発展に寄与。VUCA時代を迎え、キャリア・企業・社会のいずれにおいてもサステナビリティが揺らぎつつある今、キャリア発展を実現した方々や顧客企業で活躍中のキャンディデイトのネットワークを力として「展職」支援を継続中。 ◆略歴 1980年〜1993年 イフ外語学院 創業メンバー 留学カウンセラー 1993年〜 株式会社アクシアムを創業 代表コンサルタント 1997年〜1999年 民営人材紹介事業協議会理事 1998年〜2002年 在日米国商工会議所(ACCJ)人的資源マネジメント委員会副委員長 ◆実績 プロフェショナルファーム、マネジメント(C-suite、C-1)、イノベーション、グローバル、MBAホルダー関連のキャリア紹介の成約実績多数。 主な著書:『転職しかできない人 展職までできる人』(日経人材情報) コーポレートサイト:株式会社アクシアム |
※内容や肩書は、取材を行った2026年5月時点の情報です。
