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*こちらの記事は「外資就活ドットコム」からの転載となっております。

複雑な階層の中で個人が競い合って成果を上げ、短期間で組織として成長する――。そんな企業が良しとされる世界観は変わりつつあるのかもしれない。“時代の最先端”においては。
次世代の組織の在り方を示した著書『ティール組織』が、世界でベストセラーになっている。上司らの細かな指示なしに目的実現に向けて各メンバーが自律的に取り組める、生命体のような組織。
ティールの考え方に共感する各企業は、実際にどのような取り組みをしているのか。そこでは新卒社員はどのように扱われ、成長するのか。複数の企業や組織、研究者らに取材した。
##「解のない世界に解を作る」 必然としてのティール コンサルティングビジネスを手掛ける東証一部上場企業・シグマクシスは、2008年の創業以来、ティールに近い考え方で組織を運営してきた。 社内の階層は最低限しかない。ヒエラルキーに基づく指揮命令ではなく、プロジェクトごとのチームの中で個々の役割が定まる。メンバーの話し合いでチームごとに独自の就業ルールが決まる。社員が個々に机を持たない完全フリーアドレスで、そもそもオフィスの席数は全社員人数の3分の1にも満たない。 経費精算など書類のやり取りが必要なときだけ出社する社員もいる。それでも、社内のコミュニケーションを活性化するため、デジタルツールを駆使。経営上の重要データもリアルタイムで確認できる状態となっている。「あの数字どうなってる?」と担当の管理職に尋ねずとも把握できる。無駄が徹底的に省かれているのだ。 「一人一人が元々持っている『自分のやりたいこと』をベースに、自分のミッションとゴールを自分で決めます。チームの中でルールとアウトプットの品質基準を決め、やり切る。そして成果を出すのです」と説明するのは、同社の創業メンバーの一人でディレクターの内山そのさん。 内山さんによると、同社では「ティール」や「ホラクラシー」といった言葉は使わず、「自律型組織」と呼んでいる。なぜこうした運営方法をとっているのか。背景にはコンサル業界の変化があるという。 「私がこの業界に入ったころは、『知識の再販』か『グローバルの成功事例の輸入』によってクライアントの大抵の課題を解決できていました。つまり、すでに何かしらの解があり、それを料理して当てはめればうまくいくことが多かったのです」(内山さん) しかし、インターネットやITの爆発的な普及で急速にデジタル化が進む中、特にここ10年くらいは「解のない依頼」が増えてきたという。内山さんは「すべてハンズオンで一社ごとに特有の解決策を考えなければ、価値の高いアウトプットを生めなくなってきました」と語る。 「こうでもない、ああでもないと言いながら、お客さんと一緒にトライ&エラーを繰り返す。やったほうがいいと思ったことは『やらせてください』とすぐ言える環境。『これをビジネス化したい』とか『A社とB社と組んでこれを立ち上げたい』とか、そんな自由な提案が次々に出てくる土壌でないといけないのです」(内山さん) 内山さんは、「『これはリスクだからやっちゃダメ』とか『お前はこれをやれ』とか言っている人間が“上”にいればいるほど、こうした自由な発想はなくなっていってしまいます」と指摘する。そのため、社内のピラミッド構造はできる限りフラットとし、情報が常に流通するような働き方を可能としたのだ。
##新卒でティール、「学べる環境」と「自ら学ぶ姿勢」が不可欠
そんな同社では毎年40人規模の新卒採用を行っている。新卒社員はどのように扱われるのか。
「自分の成長は自分で設計するというコンセプトをものすごく強く打ち出している」と内山さんは説明する。「自分のやりたいこと」が「やるべきこと」に限りなく近づき、高いモチベーションで仕事に向かえるようにするために、自分が何をすべきかを自身で設計することが求められるという。
ただ、自分の成長に役立てるための研修やトレーニングなど学習の場は豊富に設けられている。まず入社後半年間は新人研修がある。「初めは稼がなくていいから、自分で自分のご飯を食べられるようになってもらうため“箸の上げ下ろし”を学んでもらいます」(内山さん)。
その後は、用意されている充実したトレーニングのコースから自分が何を受講するか、すべて自ら決めることができるという。「今年はこれくらいのことができるようになりたいと思ったら、それに合わせて何を学ぶかはすべて自分で決めて、という考え方」(内山さん)なのだ。
シグマクシスのオフィス。完全フリーアドレスとなっている(写真:同社提供)
このような「育てる環境が当たり前にあるかどうかが重要」と語るのは、ティール組織の考え方に共感し、組織運営を行うBIOTOPEの代表・佐宗邦威さん。同社は、P&Gでマーケティングを経験するなどした佐宗さんが2015年に立ち上げた共創型戦略デザインファームだ。創業数年ながら大手コンサルや広告代理店と競合しても案件を勝ち得ているという。
BIOTOPEは現在30人規模の組織。「新卒採用」という採用区分は設けていないものの、大学などを卒業後すぐに採用した“新卒社員”は複数人いる。いずれもインターンシップや業務委託を経験後に社員として採用していて、入社1年足らずで主力メンバーといえるまで成長しているという。
「ティール組織は、ふつうにやると新卒よりもスキルをすでに持つフリーランスが集まってやるほうが簡単だと思います。ですが、うちはBIOTOPEという社名の通り『新しいものが生まれる場』なので、育てる環境をすごく重視しています」(佐宗さん)
ただ、自ら学び取る姿勢は不可欠だ。「無人島にヤシの実がたくさんなっているものの、初めはどう登れば取れるのか分からない状態」。佐宗さんはこう表現する。他のメンバーらから学べる機会は豊富にあり、学べる内容のレベルも高いため、「やる気があって自分からアクセスできる人ならすごく学べる環境ですが、誰が指示するわけでもない」(佐宗さん)。
この自律的な学びの環境を整えるため、佐宗さんは組織全体の関係性作りに気を配っている。農産物の生産方法に例え、「ティール組織は自然農法みたいなもの。養分の管理を徹底的に行うのではなく、自然界と同じような生命力あふれる豊かな土にすることで自然にいろいろな野菜が育つようにする。そのための“土づくり”が大事なのです」という。
エンゲートのコーポレートサイト。ホラクラシーを導入していることが明示されている
しかし、BIOTOPEの佐宗さんは、ティールかどうかがキャリア選択の軸に「将来的になると思います」と話す。
「ティール組織は、今のネット時代に創造性を高めようと思ったら必然的に行きつく解だと思います。ただ、“時代の最先端”ではある。そのため今の時点では、時代の構造変化に対して感度のかなり高い人だけがその世界観に共感している程度でしょう」(佐宗さん)
この見方は、佐宗さんが起業した背景にも通ずる。過去に自分がクライアント側として関わった戦略コンサルからは「新たな価値」や「特筆すべき成果」が出てこないことを身をもって知ったという。「イノベーティブな新しいものを生むには、今考えられている手法ではないやり方のほうが合理的だと思ったのです」と語る。
この視点には、まだ解のない依頼に対して新たな解を生むための土壌として自律型組織を選んだシグマクシスの姿も重なる。今、次代につながる新たな価値を生む組織であるためには、ティールの考え方を取り入れることが必然なのかもしれない。
早大ビジネススクール准教授の入山さんは、誰もが知る外資系戦略コンサルの名前を挙げ、「今そこに行くのは“負け組”。その時点でイノベーションを起こせない人たちといえます」と持論を語る。戦略コンサルの現役のパートナークラスにも「当時は知る人が少なかったから入ったが、今なら戦略コンサルには入らない」と言い切る人がいるという。
##今の資本主義を乗り越える? ミレニアル世代の可能性
ティール組織は次世代における「必然の解」かもしれないし、たしかに新たな価値を生みやすい土壌といえるかもしれない。しかしながら、これまで見てきたような個人の自由度の高い組織で、従来のいわゆる「達成型組織」と同等以上の“成果”は上がるのだろうか。
エンゲートの藤田さんは、「従業員側に実力があることが前提ですし、経営側は権限を委譲する胆力が要ります」とポイントを示す。「“放っておいても勝手にできるスタッフの集まり”を“信じて遠くから見守る”イメージ」ともいい、主体性のない人や、スタッフ側の変化のに経営判断が追いつかないことがあると、組織がうまく回らなくなる可能性を指摘する。
「失敗もたくさんあります。事業そのものの失敗もありますし、いろいろなところで失敗します」と語るのはシグマクシスの内山さん。しかし、解のない世界に解を作るのだから失敗もあって当然、というのが同社のスタンス。内山さんは、「率先して失敗をする。やってみなければ分からないものはやってみるのです」と力を込める。
失敗も少なくないとはいえ、同社は2013年にマザーズに上場。2017年には東証一部への市場変更をかなえ、順調な成長を見せている。内山さんは、「“無秩序”ではないものの、自律性は高める。それでいて間違っていることは間違っていると言わなければいけないし、難易度は高い」と語りながらも、たしかな手応えを感じているようだ。
BIOTOPEの佐宗さんは、「短期的に成果を出せといわれたら、達成型組織のほうが出せる可能性は高いかもしれません」と率直に語る。しかし同時に、「時間軸を少し長くして見ると、ティールが生み出す価値のほうが絶対に高いと思います」と一歩引いた視点も示す。
また、達成型組織を農産物の「促成栽培」に例える。温度などを管理することで野菜の発育を促して通常よりも早く収穫する促成栽培では、「栽培する野菜をどんどん入れ替えて3年するともうそこでは育たなくなってしまいます」という。一方で、ティールに例える「自然農法」では、「土が良いため長期的に良い野菜が育つのです」(佐宗さん)。
佐宗さんはさらに、「外資メーカーとかにありがちですが、『あの人は成果をすごく上げるけど、その人が通った後にはぺんぺん草も生えない』といったことがけっこうあります。栄養分をすべて搾り取り、使い切って成果にしていくところがある」と指摘。周囲のメンバーの疲弊や離職率の上昇といった“代償”が伴うということだ。
「それらを考えたとき、特にうちのようなクリエイティブな組織では個々人のモチベーションや創造性が最重要の経営資源なので、“達成型”では疲弊していくと思いました。『休みたい』とか『別のことをしたい』、『何のためにやっているのか分からなくなった』などとなりそうだと。特に質を重視する組織には達成型は向かないでしょう」(佐宗さん)
それでは、佐宗さんが語るような「長めの時間軸」で組織が評価される未来は訪れるのだろうか。佐宗さんは、1980年以降に生まれたミレニアル世代が現場の主役になりつつある今、組織の創造性や長期的な自分の存在意義を重要視する彼ら彼女らによって、必然的に現場の雰囲気は変わりつつあるとみる。
「ネットなどインフラがさらに整えば、よりシェア型の経済に変わっていく。そのときには今の資本主義を乗り越えて、個人の存在意義が重視される世界が実現するはずです」と佐宗さんは予想する。
佐宗さんによると、同じ30代で「儲けようというよりは社会のために何をやるのかという意識の起業家」も目立ってきた。そうした世代が社会にインパクトをもたらすようになるまで「あと10年くらいじゃないか」と考えているという。
現時点では、ティール組織が答えかどうか分からない。そもそもティールとしての定まった運営方法や組織形態があるわけでもない。しかしながら、そこは時代の最先端であり、これまでにない新しいことをやっているのは間違いなさそうだ。今この時代に自ら答えを作っていく取り組みそのものが、ティールという現象なのかもしれない。