「アメリカ人は『仕事の選球眼』と『見せ方』がうまい」外資系米国本社で分かった、日本のビジネスパーソンに欠けているもの
2020/04/18
#海外で働きたい

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「アメリカ人は『仕事の選球眼』と『見せ方』がうまい」外資系米国本社で分かった、日本のビジネスパーソンに欠けているもの

「英語を活かせる会社に転職したい」「日本支社じゃもの足りない」ーー。 Liiga読者の皆様の中には、外資系企業、しかもその本社で活躍したいと考えている方は多いのではないでしょうか。 しかし、「外資系企業本社で評価されるには何が必要なのか」「日本支社と何が違うのか」といった疑問もあると思います。

今回は、新卒で外資系監査法人の日本支社に入社し、転職を経て現在はアメリカの大手メーカー本社で働いている田島彰さん(仮名)に、「アメリカと日本のビジネスパーソンの違い」「日本人に足りないもの」などについて聞きました。

〈Profile〉
田島 彰さん(仮名)外資系大手メーカー アメリカ本社勤務
国内有名私立大学卒。新卒で外資系監査法人の日本支社に入社した後、2年後に外資系メーカーに転職。現在は、アメリカ本社の内部監査室に所属。


【目次】
・最終通過率3%、超難関の幹部育成プログラムに食らいつき、本国のポジションを勝ち取る
・日本人は“期待値以上”を目指し過ぎ…アメリカで活躍するための「選球眼」とは
・「人も仕事も多様」。アメリカ本社で出合った新たな世界
・明確な考えがなければ意見交換すらできない。グローバル人材になるため「積極性」と「質問力」を高めよう

最終通過率3%、超難関の幹部育成プログラムに食らいつき、本国のポジションを勝ち取る

ーーーーこれまでの経歴を教えてください。

田島:大学時代の専攻は、財務と会計でした。3年次にカナダへ1年間留学していた時、ボストンでのキャリアセミナーに参加しました。それがきっかけで外資系の監査法人からオファーをもらい、新卒で日本支社に入社しました。

その監査法人に2年ほど在籍した後、外資系メーカーに転職。現在は、経営幹部候補生プログラムの一環で、アメリカ本社の内部監査室に所属しています。

ーーなぜ転職しようと思ったのですか。

田島:大学を卒業したら、いつかは海外で働いてみたいと考えていました。そこで、外資系監査法人の日本支社に入社したのですが、その監査法人では海外勤務の機会がほとんどありません。それならば、アメリカ本社への転勤制度がある企業に転職した方がいいと考えました。

加えて、現職の育成プログラムの評判が良かったのも理由の一つ。成長につながる絶好の機会だと思いました。

ーーどんな育成プログラムなのでしょうか。

田島:最初は、「CFO養成プログラム」に参加しました。このプログラムは、2年半をかけてファイナンスのプロを育成するものです。

それが終了した後、経営幹部候補生プログラムに応募し、無事社内の厳しい選考を潜り抜けて参加することができました。

プログラムでは世界中から集められた約200人の参加者が、1チーム5人で編成されて世界各地の支社に派遣されます。各支社には4カ月間常駐し、監査や社内に対するコンサルティングを行います。 私の場合、最初の4カ月はヨーロッパで財務監査、次の4カ月はアメリカで社内コンサルティングに関わりました。今は3サイクル目に入り、アメリカ本社で監査に携わっています。このようにアソシエイトとして実務をこなしながら、幹部になるための指導を受けていくのです。

ーーどれくらいの人が合格できるのですか。

田島:参加者は全員、まず2年間このプログラムを受けるのですが、3年目以降に進む段階で人数が絞られます。大体3分の1くらいが残りますね。その限られた人材がマネージャーに昇進し、続きを受けることができるのです。

そして3年目に残った中の約10%が4年目に進み、シニアマネージャーに昇進できます。

このようにどんどん人数が絞られていき、残った参加者はプログラムを進めながら昇進できるというわけです。

プログラムの最後まで残ることができるのは、スタート時の3%以下とされています。

ーーこのプログラムで最後まで残ることができた人材はどうなるのでしょうか。

田島:4年目以降に残ることができた選抜人材は、幹部あるいは役員として扱われ、各国のCFOクラスの役職に配置されます。

実はこのプログラム、GAFA日本支社のCFOや大手服飾企業のCEOが卒業生に名を連ねるなど、経営人材を数多く輩出しているんですよ。

日本人は“期待値以上”を目指し過ぎ…アメリカで活躍するための「選球眼」とは

ーーアメリカと日本のビジネスパーソンの違いを教えてください。

田島:日本人は、「専門性の高さ」「時間を守る律儀さ」「与えられたことをこなす力」などが高く評価されていると思います。

つまり、勤勉で、与えられたものに対するアウトプットのクオリティーは非常に高いと見なされているわけです。海外で働く他社の日本人と話していると、これは弊社の中だけではなく、世界中で認められていると感じました。

一方、アメリカのビジネスパーソンの優れている点は「仕事の選球眼」「見せ方」です。

ーーその2つについて詳しく教えていただけますか。

田島:まず「仕事の選球眼」とは、完璧さを求めるよりも、重要な点を的確におさえて仕事をするということです。以前にアメリカ人の上司から、「君に仕事を出すといつも完璧な成果物を出してくれるが、仕事にメリハリをつけて、リスクの高いタスクに集中した方がより良い成果が出せる。あとオフィスにいる時間が長すぎる。これは持続可能じゃない。自己犠牲をし過ぎないように(Don’t kill yourself too much)」というフィードバックを受けました。

私が日本で学んだ働き方は、アメリカ人の上司の目にはこのように映るのかと驚かされました。

一緒に働いていたアメリカ人の同僚の働き方を見ていると、とりあえず終わらせることを目標とする仕事と、期待値を超えることを目標とする仕事を明確に分けていました。また、予定よりも早く仕事が終わりそうになると、言われたこと以外のタスクを上司に提案し、自分で仕事を見つけ、上司の期待値以上の結果を残していました。その上、自分よりも勤務時間が短く、仕事のメリハリの付け方と選球眼は勉強になりました。

ーーでは、「見せ方」とは。

田島:仕事や自分をうまくアピールするやり方です。プレゼンテーションが、一番わかりやすい例だと思います。

例えばアメリカ企業の株主総会や新製品発表会では、会社のトップがホールを縦横無尽に動き回るんです。そこで、ダイナミックに新事業のプレゼンテーションをしています。話し方、伝え方、質疑応答のわかりやすさ、声のトーンなどあらゆる「見せ方」を考慮しながらです。

そしてアメリカ企業の重役は、「誰が見ても格好良い」と思われるように努力していると思います。彼らはアナウンサーが受けているようなトレーニングまでしていると聞いたことがあります。

ーー田島さん自身は「見せ方」に関して意識している点はありますか。

田島:会議の臨む際は自分が1番伝えたいことを最も簡潔に伝える方法を常に考えています。英語が母国語ではないため、言語面の不安は常にあります。自分のメッセージを明確に伝えるために、何を1番伝えたいのか、どうしたら一文で伝えられるのかをよく考えた上で、会議に臨んでいます。

段違いの多様性。日本人がフィットするには、フロントよりバックオフィスがオススメ

ーーアメリカ本社で働いて日本との違いを感じたことはありますか。

田島:最も違いを感じたのは、職場の環境ですね。世界約180カ国・地域に支店があり、本社にはさまざまな人種、母国語、出身国の社員が集まっているため、ダイバーシティに富んでいます。

私が内部監査室の社員の構成比は流動的ですが、だいたい次のような感じでしょうか。

アメリカ系・・・50% ヨーロッパ系・・・25% アジア系・・・20% その他・・・5%

やはり、アメリカの会社なのでアメリカ人は多いですが、それでも半分くらいです。色々なバックグラウンドの人が所属しています。

ーーそのような多様な文化の中で働くのは大変そうですね。

田島:はい。社員はそれぞれ違う文化的背景を持っているので共通認識を形成しづらく、意思疎通は容易ではありません。ただし仕事はシステム化されているので、文化的な差異があってもスムーズな業務が可能になっています。

特に、マネジメントスタイルは非常に洗練されています。日曜日の夜に個人の週間目標と月間目標が上司からメールで送られてきて、月曜日の会議で方針を確認。そして、水曜日にマネージャーと進展を確認し、金曜日に達成状況を確認するという流れです。

このように細かなシステムで仕事を進めれば、文化的な差異を乗り越えて共に働くことができます。

ーーギャップの大きさは職種によっても違うものなのでしょうか。

田島:そうかもしれません。例えば、営業などフロントオフィスの人材として海外本社で活躍する日本人の話は、あまり聞いたことがないですね。日本とアメリカの商習慣や営業方法には明確な違いがあり、求められるスキルも全く異なるからだと思います。

ーーバックオフィスはどうでしょうか。

田島:バックオフィスのような管理部門は、アメリカでは仕事が得やすい職種なので、狙い目です。 財務や人事、法務など管理部門の業務は、グループ各社で業務を統一する必要があるからです。ダイバーシティーに富んだグローバル企業では、世界中で同じ管理関連業務をすることが求められるので、本社への異動や転職の機会は多くなると思います。

ーーほかにアメリカ本社特有であると感じたことはありますか。

田島:アメリカ本社に移ってからは、「業務の幅広さ」に驚きました。例えば、財務の部門だけで見ても、M&A、投資家に対してのコンタクト、資金調達、経理など様々な機能があります。

一方で日本の支社の財務部門は、経理や予実管理が中心で、業務の幅は本社ほど大きくはありません。アメリカ本社の仕事の幅広さは、大きな魅力だと思います。

明確な考えがなければ意見交換すらできない。グローバル人材になるため「積極性」と「質問力」を高めよう

ーー実際に米国本社で働いてみて、苦労したことはありますか。

田島:2つあって、1つは英語力ですね。留学していたので、英語には自信がありましたが、いざ働いてみると日常会話とは全然違うと感じました。ビジネス特有の言葉使いや専門性の高いワードなどですね。

もう一つは、コミュニケーションの取り方です。日本人に足りないこととしては、自分の意見を持ち発言する「積極性」、それから適切なタイミングで良い質問をする「質問力」が挙げられます。アメリカでは、これらがコミュニケーションを取る上で非常に重要になります。

ーー質問力とは、具体的にはどんな力ですか。

田島:「質問力」とは、人の話をしっかり聞き、要点を理解し、良い質問をする力です。

アメリカでは、話を深掘りする質問や回答者が忘れていたポイントの質問をすると、一目置かれます。「頭の良いヤツ」と思われるのです。論理的な思考ができて、仕事の組み立てが非常にうまいと認識されるのでしょう。アメリカのビジネスでは、このような質問ができる人が重宝されます。

欧米には、この質問力を学生時代から鍛えるカルチャーがあります。大学の授業でも積極的に手を挙げて質問することを求めるのです。一方で日本の場合は「なに出しゃばってるんだ」という雰囲気になることもありますよね。

ーーこの質問力はどうしたら鍛えられますか。

田島:「積極性」が大前提でしょうね。まずは主体的に知識をインプットしてまとめること。その上で、まずは手を挙げてみることが重要だと思います。

また、「自分がどうしたいか」を上司もしくは自分のチームに日頃から発信することが重要だと思います。

日本で働いていた頃は「この仕事はこうして」とトップダウンで指示される場合が多かったです。しかし、アメリカでは違います。上司は指示をするのではなく、必ず「お前はどう思うんだ?」と聞いてくるのです。そう聞かれたら「〇〇だから〇〇だと思うのですが、上司のあなたはどう思いますか?」と速やかに返すことが求められます。

アメリカで働くようになってから、こういったコミュニケーションが日常的に求められるので、常に明確な考えをもっておくことが大切だと思います。

ーーアメリカでは常に主体性が求められるわけですね。

田島:その通りです。私はアメリカに着任して間もない頃に、上司に次のように言われました。 「ちゃんと話を理解して質問し、他者の意見を引き出し、その上で自分の意見を教えてくれ。それではじめて君の価値が提供されるから頑張ってくれ」

ーーこれからアメリカ本社で働きたいと思っている人に何かアドバイスはありますか。

田島:アメリカの会社で日本人が対等に戦うには、言語や文化の壁を乗り越える必要があるため、普通の成果をあげるために周囲の2~3倍努力することが必要です。

しかしそれらの壁を乗り越えることで、自分が想像したこともないような世界をみることができます。機会があれば是非チャレンジしてみることをオススメします。

コラム作成者
外資就活ネクスト編集部
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