戦略コンサルファームやM&Aアドバイザリーの重要性は、コロナ禍によって深刻な経営判断が迫られる企業が増えている昨今においてますます高まっています。これらの業界への転職を考えているLiigaユーザーも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、Liigaに登録しているエージェントの中でも、非常に高い口コミ評価を受けている、新美 智子さん(Wayout Strategic Partners 代表取締役副社長)にインタビューを実施。
戦略コンサルファームやM&Aアドバイザリーの選考で見逃されがちな「ビヘイビア対策」の重要性とポイントについてお聞きしました。
・「正直、ケース対策だけでは決まらない」口コミ星4超のエージェントが語る“ビヘイビア対策”の重要性
・ビヘイビア面接を乗り越える3つのポイントは「ゴール・視座・ストーリー」
・「いつか転職したい」「何がしたいかはっきりしない」でもOK。まず相談して欲しい理由とは?
・「準備不足でも飛び込む勇気を」戦コン・M&A仲介業界を目指す人が大切にして欲しいこと
「正直、ケース対策だけでは決まらない」口コミ星4超のエージェントが語る“ビヘイビア対策”の重要性
――戦略コンサルファームやM&Aアドバイザリーの選考において、一番の難所はどこだと考えていますか?
新美:面接ですね。書類や適性検査は基本的な準備をしていれば通過しますから。
――面接というと、やはりケース面接が山場になるのでしょうか?
新美:特に戦略コンサルファームになると「ケース面接でほぼ採否が決まる」というイメージを持っている人も多いかもしれませんが、正直ケース面接だけでは決まりません。
ケース面接で高い評価を得るのは大前提で、実際にオファーを勝ち取るにはビヘイビア対策が必要不可欠です。
――ビヘイビアというのは、志望動機やこれまでの業務内容、キャリアビジョンなどのことですよね?
新美:そうです。
――例えばどんなところが評価の対象になるのでしょうか?
新美:最近ですと、クライアントや自社内を巻き込むようなリーダーシップがあるかを見られることが多いですね。
――ということは、人を巻き込んで実績を作った経験がない人の場合、転職は難しい?
新美:いえ、それは本人が自覚していないだけです。戦略コンサルファームやM&Aアドバイザリーを目指すような人は、掘り下げればほぼ確実にそういう経験があるものなんです。
別に大きな組織変革をハンドリングした、なんて実績は必要なくて、「自分と意見の異なる人に対して納得してもらって物事を進めた」という経験があれば十分です。
――とはいえ、結果として数字を出していないと厳しいのでは?
新美:そんなこともありません。最悪結果が伴っていなくても、評価してもらえる可能性はあります。
――規模も数字も見られないとなると、どこが見られるのでしょうか?
新美:思考プロセスや実際の行動ですね。相手はなぜ反対したのか、それに対してどういう課題解決方法を、どんな思考プロセスで選び、どうやって実行に移したのか。これらをきちんと伝えられれば大丈夫です。
ただその時の説明に論理的な矛盾があったりすると、ロジカルシンキングに難ありと判断されてしまうので、事前の準備が必要なんです。
ビヘイビア面接を乗り越える3つのポイントは「ゴール・視座・ストーリー」
――ビヘイビア面接を乗り越えるためのポイントを3つ挙げるとしたら?
新美:ゴールと視座、そしてストーリーです。これらが論理的にきちんと筋が通っていなければなりません。
――1つずつ説明をお願いします。
新美:まずはゴール設定です。候補者の方の中には、戦略コンサルファームやM&Aアドバイザリーに入ることがゴールになってしまっている人が一定数います。
しかし戦略コンサルファームで言えば、結局のところ課題解決を通じて企業支援をする箱に過ぎません。大切なのは、その箱を使って自分が何をしたいのかです。まずはそこまで考えを深めておく必要があります。
――2つ目の視座というのは?
新美:ビヘイビア面接では、高い視座が求められます。というのも、パートナークラスになると日常的に企業のCEOクラスとやりとりをするわけですが、彼らは基本的に「自分の会社をどうするべきか」という低い視座ではなく、「産業・業界としてどうするべきか」という高い視座で物事を考えています。
そんな人たちに対して提言をするわけですから、こちらも同じくらい高い視座を求められるんです。
――「戦略コンサルになって、会社の困りごとを解決したい」というレベルでは不十分だ、ということですね。
新美:はい。「自分が業界のリーダー格だったらどう考えるだろう、動くだろう」というレベルが必要です。
――3つ目のストーリーはどうでしょうか?
新美:伝えるべきことがちゃんと伝わるように、自分のキャリアや考え方についてきちんとストーリーラインを描いておくということです。というのも、多くの候補者の方は「あれもこれも伝えたい!」とストーリーを盛りだくさんにする傾向があります。しかし、それをぶつけられた方からすれば「結局何が言いたいの?」と困ってしまいます。
――何でもかんでも伝えればいいというわけではない?
新美:詰め込みすぎると論理的な矛盾が生まれるリスクもありますから。今の自分の思考、これまでの行動、これからのビジョンをきちっと筋道を立てて話せるようにしておかなければなりません。
「いつか転職したい」「何がしたいかはっきりしない」でもOK。まず相談して欲しい理由とは?
――そう考えると「いつか転職したい」「何がしたいかはっきりしない」といった状態でエージェントに相談しても、あまり意味がなさそうですね……。
新美:逆です。むしろ自分の力だけで深掘りするのは非効率です。
――どうしてですか?
新美:転職のタイミングや自分のビジョンを整理するには、ある程度の情報量が必要だからです。しかしネットや人伝ての情報では質・量ともに不十分。一生懸命考えても一向に答えは出ません。それなら最初からプロに相談した方が得策です。
――自分の考えを整理しないまま相談に来る人もいるのですか?
新美:たくさんいますよ。「私はこういうことがやりたくて、でも今はこういう状況で、あとこういう思いもあって……」みたいなぐちゃぐちゃの状態で来る人も珍しくありません。でもそれを整理するのが私たちエージェントの仕事なので、何の問題もないんです。
――整理していくと、キャリア像が見えてくるものですか?
新美:はい。ぐちゃぐちゃに絡まっていた糸を解いていくことで、これまでのキャリアがストーリー化できることもありますし、対話の中で見えてくるその人の願望を言語化することで「自分にはそんなキャリアもアリなんだ!」という気づきを得てもらうこともあります。
――整理した結果、「今は転職のタイミングじゃない」という結論に至る人もいるのでしょうか?
新美:いらっしゃいますよ。そういう場合は結論を急がずに、ご本人にとって一番良いタイミングで一番良い意思決定ができるよう、付かず離れずの距離感でサポートするようにしています。
――候補者のキャリアを中長期的に考えているわけですね。
新美:確かに1日選考会に行ってもらったり、「今申し込みをすると採用率が高いのでチャンスですよ」みたいな提案をしたりすれば、より早くより多くのオファーをいただけるかもしれません。
でもそれでは結局クライアントのためにも、候補者のためにもならないと思うんです。
――どうしてですか?
新美:まずクライアントにとっては、ミスマッチのリスクが高まりますよね。次に候補者の方にとっては、例えば20代後半〜30代前半の2〜3社目は、その後のキャリアのコアになります。
それを変に「受かりやすい」という理由だけで受けてしまったら、取り返しのつかないことになりかねません。
「準備不足でも飛び込む勇気を」戦コン・M&A仲介業界を目指す人が大切にして欲しいこと
――戦略コンサルファームやM&Aアドバイザリーを目指す人に対して「これは日頃から自分で考えて、行動しておいて欲しい」ということはありますか?
新美:環境がどんなふうに変化しても生きていける力を身につけるよう、日頃から心掛けておいて欲しいですね。
――どうしてですか?
新美:新型コロナウイルスの影響で世の中が一変し、「今まで同じように続いていく」ということがもう何一つなくなってしまいました。だから会社名や社内のポジションに価値を見出すのではなくて、最悪独立して個人でも生きていけるような力を磨いておく必要があると思っています。
――そういう力を磨くためにはどうすればいいのでしょうか?
新美:準備不足でも飛び込む勇気を持つことです。準備をしてから新しいことに挑戦するというスピード感では、どうしても時間がかかってしまいます。変化の早い今の世の中では、準備が終わった頃には環境が変わっているリスクさえあります。
そんな事態にならないためにも自身の経験を過小評価せず、自分の可能性を信じることです。
――成功例が急速に陳腐化していく時代にあっては、新しいことにどんどんチャレンジすることが大事だということでしょうか?
新美:はい。タフな時代ですが、一方で挑戦のコストやリスクは小さくなっていますから、チャレンジしたい人にとっては生きやすい世の中になってきています。
特に20代、30代の方はあとからいくらでも軌道修正できる年代です。「自分は一生これでやっていくんだ」と決めるのは、ちょっともったいないなと思いますね。