「回遊」するキャリア① スタートアップから大手プラットフォーム企業へ。業界のリーディングカンパニーに貢献できる「スキルセット」を準備せよ
2022/04/26

description

大手企業から転職し、スキルを生かしてスタートアップの立ち上げに携わる人は少なくありません。さらに、スタートアップの立ち上げに携わったという新たな経験を再び大手企業で生かそうと、転職を検討する人がおられます。

そこで本コラムでは2回にわたり、大手企業とスタートアップを「回遊」する方々に対するインタビューを通じ、先行き不透明な時代でしなやかにキャリアを重ねていくヒントを、エージェントによる解説と共にお伝えします。

第1回のケースは、大手プラットフォーム企業でプロダクトマネージャーとして、新サービスの事業企画に携わる30代男性です。新卒で外資系企業などで勤めた後、スタートアップでチームマネージャーとして力を発揮。現在は大企業に転職し、活躍されています。

そんなスタートアップの経験を生かして業界のリーディングカンパニーへの転職を果たし、スキルや年収を上げ続ける男性は大企業への転職時にどのような点を重要視したのでしょうか。また、男性のようなキャリアを重ねるために必要なことは何でしょうか。


「完璧なタイミングで“いい話”があるとは限らない」キャリアプランを前倒しして掴んだチャンス

ーーこれまでに3度転職をされていますね。

A:はい。新卒で外資系IT企業のエンジニアとして入社した後、同業種の営業に転身しました。その後スタートアップに転職し、事業開発チームマネージャーを勤めた後、現在の会社に来ました。スタートアップからキャリアアップを考えた際に、各社で部署や役割を変えることも検討しましたが、最適なポジションがなかったからです。

ーー中でも3社目から4社目への転職は、スタートアップから大企業へという異色の転職です。この経緯について詳しく伺えますか?

A:自身がスタートアップで積んだ経験や実績は、IT業界のリーディングカンパニーで果たして通用するのか?これらの経験や実績をもとに自分に何ができるのか?という漠然とした悩みを持っていたのです。

ーー現在の会社への転職はすぐに決意されましたか?

A:はい。もともと転職意欲は高くなかったのですが、チャンスの前倒しが来た、と思ったからです。

当時の私は「5〜6年後くらいに自分のスキルや経験をリーディングカンパニーで試せたらいいな」と考えていたのですが、そのチャンスが突然目の前に現れた。これはもう、飛びつくしかありませんよね。

ーーキャリアプランが、5〜6年前倒しになることへの不安はなかったのですか?

A:正直、当時の自分にオファーをもらったポジションで結果が出せるとは思っていませんでした。でも、自分が完璧だと思うタイミングで必ずしもそういう話があるかどうかはわからないですよね。それなら一歩踏み出したほうがいいのかなと。

当時は社員増強の時期だったんですが、私の今いるポジションに新たな募集がかけられることはその後一切なかったので、思い切って正解だったと思っています。

「圧倒的にプライベート時間が増えた」年収は?働き方は?スタートアップと大企業でのリアルな変化

ーー大手企業からスタートアップへの転職後、どんな変化がありましたか?

A:仕事の領域が大幅に広がりました。例えば新卒で入社した大手IT企業時代は、「お客様が売りやすいパッケージを代理店やビジネスパートナーと一緒に考えて、営業は代理店に委託していました。

一方のスタートアップでは、パッケージ作りだけでなく、営業もやりました。新サービスの拡充をするときは、新たなシステム作りに必要な要件の設定、マニュアル作成もやっていました。

ーースタートアップと大手での働き方に違いはありますか?

A:スタートアップでは、ワーケーションが主流でした。一方で、現在の職場は基本的に在社文化です。今はコロナの影響でほぼリモートですけどね。

ーー仕事の進め方に違いはありましたか?

A:スタートアップでは、割と細かく検討せずに物事を決めていく傾向がありました。サービスの認知度がそこまで高くないので「いかに採用してもらい、使ってもらうか」を考えることの方が多かったです。

スタートアップは全員が初めての領域なので、取引先との交渉面やプロダクト作成での要件定義の作り込みが甘くてもOKな環境なんです。

ーー今はどうですか?

A:ここでは、要件定義をしっかりと固めてから物事を進めます。だから一度決めたことに対して大きくブレることがありません。また、良い悪いではなくトップダウンで物事を決める傾向があります。

ーースタートアップと大企業、どちらが働きやすいですか?

A:大企業ですね。

ーーその理由は。

A:仕事柄、分析をすることが多いので、予測する材料やデータ、サンプルが多く、計画が立てやすい大企業の方が仕事しやすいからです。

あとは、仕事の役割や業務の方向性が定めやすいという点も、大企業の方が働きやすいなと思います。

ーーどういうことでしょうか。

A:スタートアップでは「これ私がやります」と手を挙げると、その他の関連分野についてもすべてやる必要が出てきます。スタートアップだから、他にできる人がいないんです。

このパターンは非常に多く、良くも悪くも仕事の幅が広がりすぎて方向を定めにくい点がありました。

ーー労働時間に変化はありましたか。

A:スタートアップでは12時間労働が基本です。とにかくいろいろやらなくちゃいけないので、9時半始業〜20時半、21時退社が基本でした。

現在はかなり短くなりました。10時半スタートで17時終業。入社時こそ、不慣れな部分がありもう少し長く働いてはいましたが、2年目以降は定時で帰れています。

ーーアフターファイブの時間ができたんですね。

A:はい。以前はこの時間を活用してビジネススクールに通っていました。今はプライベートを楽しんでいます。

「強みを磨けば実績はついてくる」面接で重要視された評価ポイントとは?

ーー大企業からスタートアップへの転職の際に評価されたポイントは何だと思いますか?

A:これまでのキャリアの中で、スタートアップで求められる仕事内容を一通り経験していた点です。具体的にはエンジニア、プリセールス(営業と同行する技術支援営業)、コンサルの経験ですが、そのおかげで、面接官も「技術面でのキャッチアップがある程度できそう」と思ってくれたようです。

またシンガポールで事業開発の経験もあったので、「外国人の多い環境に抵抗がなさそうだ」と思ってもらえたようですね。

ーースタートアップから現職への転職で評価されたポイントは何だと思いますか?

A:スタートアップ時代に、新領域のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)を作った経験です。

BtoCのデジタルコンテンツを物販などのCtoC向けに、新たなAPIを作成したのですが、面接官からはアライアンスの締結や、大企業相手にネゴシエーションやコミュニケーションを行った経験を評価した、と言われました。

ーー転職時に実績を評価してもらうために、意識してきたことはありますか?

A:市場価値を高めるために、自分の強みを磨き続けるようにしていますね。強みを磨けば自ずと実績ができます。実績があれば、面接の時に自信を持って自分をアピールできますから。

「スタートアップから大企業への転職は3つのことを意識すべし」経験者からの“生”のアドバイス

ーー最後に、スタートアップから大企業への転職を考える人にメッセージをお願いします。

A:お伝えしたいことは3つです。

1つ目に向き不向きを見極めること。スタートアップは0→1で何かを作る人や、専門性を持たずに幅広くやりたい人に向いています。逆に言えば、すでに専門性を持っている人にとっては雑務が多く、自分の仕事に集中できないのでおすすめしません。

専門性を確立している人が大企業を転職先とした場合、役割やポジションが最初から決まっている場合が多く、働きやすいと思いますね。

2つ目は、自分のスキルセットや実績が希望する大企業で通用するかの見極めです。具体的には新規事業をドライブできたり、現時点でその企業に不足している領域をカバーできたりするかどうか、という観点が重要です。

大企業の面接官は、スタートアップから来る人を面接している時点で、新しいことに抵抗がない人間だという点は理解しています。面接官が見ているのはそこではなく、「結局うちで何ができるのか」という点であることを踏まえ、面接で語れる実績・経験を、あらかじめ準備しておくことが大切です。

ーー3つ目は何でしょうか?

A:運です。

ーー運ですか?

A:はい。転職活動をされるとき「大企業からスタートアップへの転職は簡単だけど、その逆は難しいよ」とよく言われたものです。ではなぜ難しいのか。

それはスタートアップから大企業への転職の成否が、スタートアップでの実績・経験を評価してくれる面接官に当たるかどうかにかかっているからなんです。

ーーもう少し詳しく教えてください。

A:仮にスタートアップから来た人が「新しいプロダクトで1億円の売上を作りました」とアピールをしても、「うちならブランド力があるから、同じことをやっても10億円になるよ」と言われてしまえば評価されません。

でも人によっては「君のような人材がうちのブランド力を利用すれば、15億円の売上を作れそうだね」と言ってくれるわけです。どちらのタイプに当たるかどうかは、やはり運なんですよ。

エージェントの眼:成功の秘訣は「タイミングの見定め」と「逆算思考」

男性が自身の納得する転職に成功した最大の理由は、どこにあるのでしょうか。株式会社プロフェッショナルバンクの人材エージェントで、ITサービス領域などの支援を得意とする直井久瑠実さんに尋ねてみました。

直井:男性は、ご自身の掲げていたキャリアプランを前倒しし、チャンスを掴んだと語っています。転職のタイミングを逃さずに動けていることが、転職成功の最大の理由だったのでしょう。

採用する企業側からすれば、社員増強の時期も、募集するポジションにも限りがあります。大企業であっても必要とする人材が採用できれば、以降は同じポジションは募集しないということもあり得ます。また、「何年後に転職を」という当初のご自身の計画から外れたとしても、目の前のチャンスに一歩踏み出したことが、男性自身のキャリアに対する納得感にも繋がっているのだと思います。

とはいえ、周囲から期待をされている若手の転職未経験の方は、日々の仕事に打ち込み、数年後の事業の成長とご自身の成長を重ねているかと思います。そんな状況下で「転職」と言われても「今はその時期ではない」と転職意欲が高まらないということは往々にしてあることです。

ただ、自身が企業から何を求められているか、どんなスキルを磨いていけばいいかという「キャリアアップのツボ」は、実は求人票の内容や面接官とのやり取りを通じて探れることがあります。「自分のどのスキルを磨くか」と見定めてから転職を考え始めるのではなく、転職活動を通じて「キャリアアップのツボ」がクリアになるといったことも、ままあることなのです。

男性のように「自分のスキルセットや実績が、希望する大企業で通用するかを見極める」といった逆算思考を持って、例えばエージェントへのキャリア相談から始めてみるのも、ご自身のキャリア形成にとってはプラスになるかもしれません。

description

コラム作成者
外資就活ネクスト編集部
外資就活ネクストは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。