VCでもコンサルでもない 研究シーズ起点で社会課題に挑む「第三の道」

2025/09/19

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大学や研究機関で日々生まれている最先端の技術や知見の多くは、社会実装されることなく埋もれてしまっている。そんな状況を打破したいと、研究成果を起点に新たな事業を創出し社会課題の解決に挑むスタートアップスタジオが、ReGACY Innovation Group(ReGACY)だ。

同社取締役兼執行役員で大学発スタートアップの起業支援にも尽力する桶谷建央氏は、「従来のベンチャーキャピタル(VC)やコンサルティングファームには存在しなかった新しい職種」の確立を目指している。VCでもコンサルティングファームでもない「第三の道」として、インキュベーションと出資を両立する同社独自の事業モデルとはどのようなものか。「答えのない問いに挑む」というキャリアの魅力について語ってもらった。

〈Profile〉
桶谷建央(おけたに・たけお)
取締役兼執行役員
筑波大学大学院人文社会ビジネス科学学術院ビジネス科学研究群経営学学位プログラム修了。大学院ではがんやウイルスなどの生物学的エージェントの振る舞いや相互作用のモデリングについて研究を行う。新卒で鉄鋼商社のメタルワンに入社し、自動車部品サプライヤー向け輸出入や投資先の経営管理に取り組む。独立系VCの側面も持つグロービスのコンサルティングチームに転職後、サムライインキュベートへ入社し、製薬企業、地方自治体、中央官公庁、大学などのプロジェクトを中心に従事。2022年にReGACYへ転身。執行役員としてPublic Sector & Government Groupを立ち上げるほか、一般社団法人ローカルイノベーション協会の代表理事も務める。

※内容や肩書は2025年9月の記事公開当時のものです。

社会課題への違和感が、キャリアの出発点

――商社からVCに転職し、ReGACYに参画するというキャリアですが、どのようなキャリアの軸があるのでしょうか。

桶谷:きっかけとなったのは、新卒時代にプロボノとして参加したNPOの活動で、島根県雲南市で不登校の子どもたちの支援に関わった経験です。

例えば両親が離婚した家庭で、母親が子どもを連れ実家に戻ってきたものの、その後母親が育児放棄気味になってしまった。小学校6年生の長女が、妹や弟の面倒を見る「ヤングケアラー」にならざるを得ない状況になっている。そんな複雑な事情を抱えたケースが多くあり、都市部で語られる不登校などとは異なる、地理的・経済的・家族的な制約を目の当たりにしたのです。

――その経験がキャリア観にどのような影響を与えたのですか。

桶谷:日本にも、構造的に解決されていない課題が深く残っていることを痛感しました。同時に、その課題に対して自分が何かしら関与し、状況が変わっていくのを肌で感じられたとき、「これが自分のモチベーションの源泉だ」と確信しました。

以降は「日本や新興国の社会構造をどう変えられるか」を強く考えるようになりました。他方、NPOに参加した当時に働いていた鉄鋼商社も、いわゆる“総合商社”の一部門であり、事業投資を中心としたビジネスモデルは非常にインパクトが大きいと感じていました。私は幼少期をインドネシアで過ごしたのですが、インドネシアでは某日系自動車メーカーの進出と同時に、商社が鉄の供給を担うことで国全体の工業化が進みました。その発展ぶりの印象は、強く心に残っています。そうしたダイナミズムに引かれて、国内最大手の鉄鋼系商社に入社したのです。 description

――実際に入社してみてどうでしたか。

桶谷:出資先である自動車部品メーカーの経営管理、業績予測などを担いましたが、Excelでの予実管理や報告資料の作成が中心で、社会貢献の実感を得難かったです。数字上は数億円単位で売り上げが計上されていても、「世の中にどのように貢献しているか?」の手触り感は乏しく、モチベーションのスイッチとのギャップを感じていました。

VCで気付いた限界と次の選択

――その後なぜVCを選んだのでしょうか。

桶谷:構造的な社会課題に対して、VCであれば社会的インパクトを生むことができるのではと考えたからです。

商社で働くうちに「もっと社会課題に近い場所で仕事をしたい」という思いが強まり、4年目で商社を退職しMBAへ入学、学位取得と並行してVC業界への転職を目指しました。ただ当時のVCはほとんどが経験者採用で、ポジションが見つかりませんでした。その中で、MBA在学中から応募可能、かつ、ポテンシャル採用として組織開発や新規事業開発に取り組みつつ、VCとしてのキャリアアップも目指すことが可能だったのがグロービスでした。

――VCで働いてみていかがでしたか。

桶谷:私が思い描いていた、事業を共につくる「インキュベーション」の仕事とは大きく乖離(かいり)していると感じました。VCの主業務は有望なスタートアップを見つけてくる「ソーシング(案件発掘)」で、時間を使うのは投資判断のための資料を作成し、社内での承認を取ることでした。出資後にハンズオンで関わることはありますが、実態としては「モニタリング」に近く、支援の深さには限界を覚えたんです。

これは構造上の問題です。VCの収益は、投資先のIPOやM&Aなどイグジットの際のキャピタルゲインとファンドの管理報酬です。キャピタルゲインは成果が出るまでに5〜10年かかるので、短期的な収益は管理報酬が中心、かつ、管理報酬は年にファンド総額の2%程度なので、そこから人件費を出すには限界があります。そのため、インキュベーション文脈で多くの出資先に深く関わることは、むしろファンド運用上のリスクにもなり得るという現実もありました。

――なぜ同じくVCであるサムライインキュベートに転職したのですか。

桶谷:次第に「自分はソーシングがしたかったわけではない」とはっきり認識するようになり、本当にやりたかった「課題解決の手触り感が高いインキュベーション支援」が実現できる場所を探し始めました。投資機能とコンサルティング機能を兼ね備えたチームがサムライインキュベートだったのです。

両立できない構造を超えて──ReGACY誕生の背景

――サムライインキュベートではどのような業務をしていたのですか。

桶谷:主に、大企業や官公庁向けのアクセラレーション支援を担当していました。ただし、私が本当にやりたかったのは前職では成し得なかった「課題解決の手触り感が高いインキュベーション支援」。つまり、研究シーズに根差したスタートアップのインキュベーション、さらにそれらのソリューションを活用した一気通貫での地域課題の解決です。その思いを当時のパートナーで、現・ReGACY代表(取締役社長)の成瀬(功一氏)に伝えたところ、「自分で案件を取ってきてやってもいい」と後押ししてくれたため、コンサルティング業務と並行しながら、独自に新しい領域を開拓していきました。 description

――ReGACYの設立にどうつながっていくのでしょうか。

桶谷:当時、サムライインキュベートには「ファンド事業」と「大企業向けアクセラレーション事業」が同居していましたが、両者の利益相反が次第に顕在化してきたのです。例えば、アクセラレーション事業で支援している企業と、ファンドの出資先が競合関係にあると、投資家(LP)への説明が難しくなる。両事業が小規模であれば問題なかったものが、双方が大きく成長するにつれて、両事業を一つの法人で続けることが困難になっていました。

そこで、お互いの成長のためにアクセラレーション部門は、完全に独立した別法人にすることを成瀬が考案しました。サムライインキュベート側も「このままでは互いの成長を阻害してしまう」と、独立を後押ししてくれました。そうして、成瀬を中心として、私を含めた志を同じくするメンバー複数人でReGACYへ身を移しました。

――明確なビジョンと戦略があってのスピンアウトだったのですね。

桶谷:「インキュベーションを起点に社会課題を解決し、それに資本を伴走させる」という構想は、サムライインキュベート勤務時代からずっと温めていたものです。そのため、ファンド設計や投資家選定の段階から、将来的に利益相反が生じないような仕組みを前提に構築しています。この「事前設計」こそが、他のVCやコンサルティング会社との最大の違いだと考えています。

VCでもコンサルでもない、ハイブリッドモデルの意義

――ReGACYでは、インキュベーションと投資の両方を手掛けているとのことですが、VCとどこが違うのでしょうか。

桶谷:大きな違いは「収益モデル」と「支援の深さ」です。前述の通り、一般的なVCは、キャピタルゲインとファンドの管理報酬で収益を上げます。そのため、構造的に多くの専門人材を雇って深い支援を行うことはできません。一方でReGACYではインキュベーション支援自体を、主に大学や自治体などのクライアントからのコンサルティングフィーで賄っています。このフィーによって人材を確保し、数カ月から数年にわたって研究シーズの探索、事業構想、実行支援まで一貫して関わることができるのです。

――コンサルティング会社とはどう違うのでしょうか。

桶谷::違いは大きく2点あります。まず、一般的な外資系コンサルティングファームは、大学をはじめとした公的機関の限られた予算では、フィーとのバランスが取れず十分なサービスを提供できません。また、インキュベーションのように実働が求められる支援は、標準化されたオファリングになりづらく、手間がかかるため参入しにくいのです。

もう一つは、最終的に出資まで踏み込む点です。ReGACYでは、支援を通じて育てたスタートアップに対し、タイミングを見てファンドから出資を行い、将来的なキャピタルゲインも狙う構造になっています。つまり、短期的にはコンサルティングフィー、長期的には投資リターンという二軸で事業を成立させています。 description

――事業を育てながら投資もするのですね。

桶谷:そうです。通常のVCが「外から選ぶ」のに対し、ReGACYは事業の内側から「共につくる」点が異なります。だからこそ、出資の段階では既に関係性ができており、経営者の人柄や研究技術・経営の実態など外からは測りにくいリスクの見極め精度も高くなります。さらに、投資判断のためのデューデリジェンス資料も、自分たちで構築してきた事業をベースに作れるので、時間も圧倒的に短縮できます。

「答えのない問い」に挑み、未来を動かすRA部門とは

――今回募集しているRA部門はどのような組織なのか教えてください。

桶谷:RA部門は、研究開発機関を主なクライアントとする「Research Administration dept」の略称となりますが、ReGACYのRA部門は単なる知財の管理・調査員(Research Administrator)ではありません。大学や公的機関に眠る研究成果、いわゆる「研究シーズ」を発掘し、それを事業に変えていくプロフェッショナルです。「0→1」の事業創出に現場で伴走するチームメンバーであり、従来のVCやコンサルティングファームには存在しなかった新しい職種だと思っています。

――具体的にはどのような業務を行うのでしょうか。

桶谷:業務は大きく三つのフェーズに分かれています。最初は「デューデリジェンス」で、対象領域のスタートアップの投資環境から逆算し、資金調達ポテンシャルの高い大学や研究機関の技術・研究を評価・発掘します。次に「プランニング」として、それらハイポテンシャル領域の研究シーズについて、どういった市場や事業モデルが考えられるか、知財戦略や組織構成なども含めて構想を練ります。最後が「エグゼキューション」。補助金やグラント(研究資金)の獲得、法人設立、事業化支援など、まさにハンズオンならぬ、ハンズイン(メンバーの一人として入り込んで)の支援を行うことで事業を立ち上げていきます。

事業の種を見つけ、一緒に形にし、可能性が見えたら出資まで行う。このプロセス全体をRA部門のメンバーでプロジェクトチームを組んで担っていきます。単なる調査や分析にとどまらず、「自身が触媒となってプロジェクトが動き、構想が形になる」。そうした手触り感のある仕事です。

――どういう人がRA部門に向いていますか。

桶谷:主に2タイプがあります。一つ目は、答えのない問いに向き合い続けるのが苦ではない人。シーズごとに課題が異なるので、テンプレ的な思考だと通用しません。研究者気質の人や、探究心が強い人はとてもフィットすると思います。

もう一つは、「自分の関与で時計の針が進んだ」と実感することにやりがいを感じる人。エグゼキューションの部分まで入り込むので、実際に社会が動いていく瞬間に立ち会えます。それをモチベーションにできる人は、非常に活躍できると思います。

――RA部門のキャリアパスについても教えてください。

桶谷:まずは担当者として自分の得意分野の技術領域からスタートし、一つ一つの研究シーズの立ち上げを主導することを目指します。ステップアップするとプロジェクト全体の統括となり、クライアント(各大学・高専など)ごとに、ひも付く各シーズの事業化進捗・方針を取りまとめ、スタートアップ創出方針をリードします。それらを積み上げた先には、チームの立ち上げや部署の責任者になるといった道や、出資業務に本格的に携わるキャピタリストへの道も開かれています。

――どんな人に来てほしいですか。

桶谷:何より、「構造的な社会課題に対して、自分の手で介入し、変化を起こしたい」という強い意志を持っている人に来てほしいです。日本の大学には素晴らしい技術や研究成果がたくさんありますが、それらの多くが社会実装されることなく埋もれてしまっている。そうした現実を変えたいと思える人に、ぜひ仲間になってほしいですね。

RA部門の仕事は明確な正解がある仕事ではありません。だからこそ、「このテーマは正解が見つからなかった。でも別の切り口でまた考えてみよう」というような柔軟性と粘り強さが大切です。 description

コラム作成者
外資就活ネクスト編集部
外資就活ネクストは、「外資就活ドットコム」の姉妹サイトであり、現役プロフェッショナルのキャリア形成を支援するプラットフォームです。 独自の企画取材を通して、プロフェッショナルが必要とする情報をお伝えします。