意外と知らない、転職活動の「4つの基礎スキル」——『コンサル業界大研究(第9版)』著者・渡辺秀和氏に聞く⑤

コンサル業界への転職を考える人々の多くが、まず手に取る定番書『コンサル業界大研究』。2026年1月に発売された第9版は、東京大学生協で同年2月の月間ランキング1位(本郷書籍部 就職・公務員部門)に輝いたほか、ジュンク堂書店でも同年4/20発表の週間ランキング1位(池袋本店 社会科学書部門)を記録するなど、名門大学の学生やビジネスパーソンから高い注目を集めている。連載第5回となる今回は、著者であるコンコードエグゼクティブグループCEOの渡辺秀和氏が警鐘を鳴らす「転職活動の盲点」について伺った。
▶ 第1回:拡大するコンサル業界、その本当の変化とは(山越理央氏)
▶ 第2回:コンサル業界のホットトピックス最前線(山越理央氏)
▶ 第3回:コンサルファームの採用要件、その実態とは(渡辺秀和氏)
▶ 第4回:コンサル未経験からの選考突破、その実践的メソッド(渡辺秀和氏)
株式会社コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役社長CEO/一橋大学 客員教授。『コンサル業界大研究 第9版』(産学社)著者。「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門 初代MVP。
※詳しいプロフィールは記事末尾に掲載
▍人材業界では常識――転職活動の結果を左右する「基礎スキル」
──渡辺さんはキャリア支援の第一線でご活躍されています。渡辺さんの目からご覧になって、コンサル転職において注意すべき点があればお聞きしたいです。
渡辺さん:人材業界では広く認識されていることですが、転職活動には情報収集の方法や面接の対策、応募ルートの選び方など、押さえておくべき「基礎スキル」が存在します。これらを身につけないまま転職活動に取り組むと、どんなに豊富な経験や高度な能力をお持ちの方でも、思うような結果につながらないことが多いのが実態です。
今回は、その中でも特に重要な4つの基礎スキルをお伝えしたいと思います。
▍基礎スキル① スカウトは"参考情報"と捉える
渡辺さん:1つ目は、「スカウトは"参考情報"と捉える」です。
多くの方が利用しているスカウトメール機能は、自分の経歴がどのような企業に評価されているかを手軽に把握できる、非常に便利なツールです。ただ、「サイトに登録してスカウトを待つだけ=転職活動」という認識には落とし穴があります。ヘッドハンターは登録ユーザーの経歴を見て、「この人ならこの案件で内定を獲得しやすい」と判断してスカウトを送っているのであり、当然ながら、その人の志向や価値観、キャリアビジョンまでは把握していないのです。
届いた求人案件が自分の意向と合致しないケースが少なくないのはそのためです。スカウトメールはあくまで「自分の現在の経歴で内定を得やすい求人が何か」がわかる〝参考情報〟と捉えていただくのがよいでしょう。
──希望する業種・職種のスカウトが届かない場合は、どのように転職活動を進めていけばよいでしょうか。
渡辺さん:仮に希望の業種・職種に関するオファーが届かなかったとしても、そのキャリアを諦める必要はありません。キャリア設計の仕方や選考対策の精度によっては、スカウトでは届かなかった魅力的な企業に入社できる可能性が十分あるからです。
逆に、スカウトメールで届いた案件に安易に飛びついてしまうのも危険です。「これは本当に自分が進みたいキャリアと合致しているか」を冷静に問い直すことが大切です。スカウトメールは、自分の市場価値を測るうえで1つの指標にはなりますが、それだけに頼ると「主体的なキャリア形成」は実現できません。
自分の価値観やビジョンに基づいてキャリアを設計し、そのために必要な手を打つことが大切です。
▍基礎スキル② 選考対策(書類・面接)を徹底する
渡辺さん:2つ目の基礎スキルは、「選考対策を徹底する」です。
採用選考は、学歴・職歴といった過去のデータだけで評価されるわけではありません。たとえ同じ経歴であっても、応募書類の書き方や面接での受け答え次第で、結果が大きく変わります。
よく「職務経歴書には業績を数値で書きなさい」と言われますが、異職種への転職にはフィットしないことも多いので、鵜呑みにするのは危険です。重要なのは、自分の強みを一方的に伝えることではなく、相手の採用ニーズに沿った文脈で、わかりやすく記述することです。
──面接対策はどうでしょうか。話し方や雰囲気など、もって生まれた部分も影響しそうで不安を感じる方もいると思います。
渡辺さん:面接も書類作成と同様です。面接官が「ぜひこの人を採用したい」と思える内容で自分の経歴や志望動機を話すのは、準備なしにはなかなか難しいものです。強調すべきスキル、伝えるべきエピソードを入念に吟味することが欠かせません。また、話すのが苦手な方でも、的確な準備を行えば上達します。営業職のロールプレイング研修と同じで、たった数日の練習で変化が起こることも珍しくありません。しっかりと準備をしてから臨んでほしいと思います。
▍基礎スキル③ 内定につながるルートで応募する
渡辺さん:3つ目は、「内定につながるルートで応募する」です。
あまり知られていない点ですが、どの応募ルートを選ぶかによっても、選考結果は大きく変わります。エージェント経由の応募が一般的になっていますが、スカウトメールを送ってきたエージェントが、自分の志望業界・職種に強くないことも多いので注意が必要です。
採用企業の経営陣との強固なネットワークを持つエージェントであれば、非公開求人を紹介してくれたり、経営陣にダイレクトにつないでくれたりするケースもあります。また、志望業界に精通していれば、的を射た選考対策もサポートしてもらえます。さらに、採用ニーズを正確に把握したうえで応募者の特徴を上手にアピールしてくれるため、内定獲得の可能性も高まります。
一方、志望業界に強くないエージェントに依頼しても、企業の採用ニーズを把握していないため、適切な選考対策は期待できません。結局のところ、自主応募と変わらなくなってしまうケースも多いのです。
よく、「エージェント経由で応募しても意味がなかった」と嘆く人をお見かけしますが、その多くがこのパターンに陥っています。志望業界に強くないエージェントに依頼して応募してしまったがために、よい結果が得られなかったというケースです。人材業界に長年身を置く私からすると、「その業界を受けるのに、なぜそのエージェントで応募してしまったのですか?」と驚くことが多々あります。
──どのエージェントに支援してもらうかによって、結果が大きく変わってしまうのですね。
渡辺さん:そのとおりです。スカウトメールで声がかかるのを待つ受け身の姿勢ではなく、自分から、志望業界に強いエージェントを「主体的に探すこと」がとても重要です。スカウト機能で採用動向を把握しながら、並行して自分に合ったエージェントを探すのが、理想的なアプローチと言えるでしょう。
▍基礎スキル④ 転職市場の動向を把握する
渡辺さん:4つ目は、「転職市場の動向を把握する」です。
転職活動は「市況の良い時に動き、悪い時には動かない」が鉄則です。登山で天候の変化を見極め、適切なタイミングで行動することが求められるのと同じです。
転職市場は業界の採用意欲に左右されやすく、転職の難易度も時期によって大きく変動します。例えば、「今の会社であと3年頑張ってからコンサル業界に転職しよう」と自分都合でタイミングを決めても、市場が冷え込んでいれば思うような結果にはなりません。
市況が好況のタイミングで動けば、求人数や採用枠が増え、希望に近い条件や想定以上の好待遇での転職も現実的になります。
――市況の見極めはどのように行えばよいでしょうか。
渡辺さん:市況の良し悪しを自分だけで判断するのは難しいことです。志望業界の転職市場を熟知するエージェントと、定期的にコミュニケーションをとることも合わせておすすめします。
▍信頼できるエージェントを選ぶ3つのポイント
――エージェントを選ぶ際に確認すべきポイントは何でしょうか。
渡辺さん:3つのポイントを確認してほしいと思います。
1つ目は、選考対策のサポートが充実しているかどうか。応募書類の作成時に具体的なアドバイスがもらえるか、模擬面接など実践形式の練習の機会を設けてくれるかを確認してください。
2つ目は、志望企業との強固なネットワークがあるかどうか。最新の採用動向や選考傾向を的確に把握しているか、志望企業の経営幹部と直接やりとりできる関係にあるかがポイントです。
3つ目は、長期的な視点でキャリアに伴走してくれるかどうか。中には厳しい売上ノルマが現場のキャリアコンサルタントに課せられているエージェントもあり、応募者の志向に関係なく内定を得やすい企業への応募を強引に勧めてきたり、意思決定を急かしてきたりするケースもあります。複数のエージェントと一度面談を行い、慎重に選んでほしいと思います。
多くの転職エージェントは無料でキャリア相談を受け付けていますので、ぜひ自分の目で信頼できるエージェントを選び、主体的なキャリア形成に役立てていただければと思います。
▍【編集部より】さらに深く業界を理解したい方へ
今回伺った内容をさらに詳しく知りたい方へおすすめしたいのが、『コンサル業界大研究(第9版)』だ。AI時代を迎えた業界構造の変化から主要ファームの戦略、仕事内容の実態、コンサル卒業後のキャリアパス、初学者でも十分に理解できるよう噛み砕いて解説。さらに、BCGをはじめとするトップファーム6社の幹部と著者による対談を通じ、AI時代に求められるコンサルタント像を考察している。
業界理解を一段深めたい方は、ぜひご覧いただきたい。
著者プロフィール
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渡辺 秀和(わたなべ・ひでかず) コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役CEO/一橋大学 客員教授 一橋大学商学部卒。三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサルティング部門へ新卒入社。同社最年少でプロジェクトリーダーに昇格し、多数の新規事業開発プロジェクトを手がける。 2008年、コンコードエグゼクティブグループを設立。同社は、マッキンゼーやBCGをはじめとするコンサルティングファーム、投資銀行・PEファンド、スタートアップの経営幹部、起業家などへ、数万人規模のビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきた。 2017年には、東京大学にて学部3・4年生、大学院生を対象とした正規科目「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクターを務め、授業設計と講義を担当。また、キャリア教育事業を担うコンコードアカデミーの代表取締役に就任し、学生へキャリア設計の知見を伝えるサイト「CareerPod」を開設した。2025年、一橋大学 客員教授に就任。キャリア設計の理論と実践知を体系化した授業を開講し、次世代リーダーの育成に取り組んでいる。 「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門にて初代MVP 受賞。 主な著書に『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社)、『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)などがある。 コンコード運営サイト:「コンサル&ポストコンサル転職」 AI時代のコンサル業界動向を解説:PIVOT「2026年のコンサル」 |
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山越 理央(やまこし・まさお) コンサルティングファーム研究会 代表/一般社団法人クリエイティブデザインネットワーク 理事 東京大学公共政策大学院修了。多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム修了。 プライスウォーターハウスクーパース(現 PwCアドバイザリー)に新卒入社。大企業の事業再生業務を推進し、V字回復に向けた経営改革のビジョンや再成長戦略、経営再建計画の策定を支援してきた。 現在は、国内最大規模のシンクタンクに籍を移し、戦略コンサルタント(プリンシパル)として社会課題解決に向けた企業の経営ビジョンや経営戦略の策定、新規事業開発や事業開発組織の設計などを幅広く支援している。また、デザインやアート、クリエイティブの専門家として、政府のデザイン政策やデザイン経営の立案や推進、グッドデザイン賞の海外への制度輸出、企業の経営改革や事業開発にデザイン思考や感性、美意識を取り入れるコンサルティングサービスや経営者/幹部向けの能力開発等を主導。 コンサルティング業界の現在を日本で最も広く深く知る専門家として、業界の現役コンサルタントや内定者で構成される「コンサルティングファーム研究会」を主宰。研究会では、コンサルティング業界の最新動向をリアルタイムで把握し、業界の未来に関する研究や情報発信を行っている。 |
▶ 第1回:拡大するコンサル業界、その本当の変化とは(山越理央氏)
▶ 第2回:コンサル業界のホットトピックス最前線(山越理央氏)
▶ 第3回:コンサルファームの採用要件、その実態とは(渡辺秀和氏)
▶ 第4回:コンサル未経験からの選考突破、その実践的メソッド(渡辺秀和氏)

