コンサル業界のホットトピックス最前線——『コンサル業界大研究(第9版)』著者・山越理央氏に聞く②

『コンサル業界大研究(第9版)』著者・山越理央氏へのインタビュー第2回。前回は、コンサル市場の拡大の背景や「戦略から実行へ」の変化の本質、業界構造を変える3つの変化について伺った。今回は、生成AI・地政学リスク・日系グロースファームの台頭など、いまコンサル業界で押さえておくべきホットトピックスを掘り下げる。
コンサルティングファーム研究会 代表。『コンサル業界大研究(第9版)』著者。現在は国内最大規模のシンクタンクにて戦略コンサルタント(プリンシパル)として活動。
※詳しいプロフィールは記事末尾に掲載
・生成AIは「便利ツール」の話では終わらない
・「AIに代替される」より、「AIを使いこなせるか」
・地政学リスクは、なぜ経営の中心課題になったのか
・「日系グロースファーム」は何が違うのか
・これから業界を見る人が持つべき視点
・【編集部より】さらに深く業界を理解したい方へ
・著者プロフィール
生成AIは「便利ツール」の話では終わらない
——いまのコンサル業界で、まず押さえておくべきホットトピックスは何でしょうか。
山越さん:やはり一番大きいのは生成AIです。2022年にChatGPTが出てきた当初は、「文章が書ける」「要約できる」といった便利さが注目されました。でも、いま企業が見ているのはそこではありません。生成AIをどう経営に組み込むか、もっと言えば、どう業務や組織の設計そのものを変えるか、という話に移っています。
PwC Japanの調査でも、大企業の過半がすでに生成AIを活用していて、推進中・検討中まで含めると9割を超えています。ここで重要なのは導入率そのものではなく、効果を出している企業ほど、生成AIを部門単位のツールではなく、経営テーマとして扱っていることです。
つまり、生成AIは「現場で試してみる」段階から、「どの業務に入れるのか」「どのデータを使うのか」「誰が責任を持つのか」を全社で設計する段階に入ったということです。
そうなると、コンサルの役割も変わります。単に導入を提案するだけでは足りません。業務設計、要件定義、ガバナンス、現場への定着まで一体で支援する必要が出てきます。
「AIに代替される」より、「AIを使いこなせるか」
——一方で、「コンサルタントの仕事もAIに置き換わるのでは」という見方もあります。
山越さん:そこは少し誤解があると思います。確かに、若手が担ってきた定型作業の一部は変わります。リサーチ、論点整理のたたき台、資料の初稿づくりのような作業は、AIでかなり速くなるでしょう。
でも、それでコンサルの価値がなくなるわけではありません。むしろ逆です。AIを前提に仕事を組み立てられる人の価値が上がる。どの問いを立てるか、AIの出力をどう検証するか、どう現場の業務に落とし込むか、倫理や権利、セキュリティをどう管理するか。こうした部分は、むしろ人にしか担えません。
——ファーム側も、かなり本気で取り組んでいるのでしょうか。
山越さん:はい。ベインやIBMのように、クライアント向けの生成AI支援を強化しているところもあれば、マッキンゼーやアクセンチュアのように、自社の業務そのものをAIで再設計しているファームもあります。
ここで面白いのは、生成AIが「顧客に売るテーマ」であると同時に、「自分たちの競争力そのもの」になっていることです。独自のAI基盤を持つか、社内知見をどうAIに接続するかで、今後の差がついていくはずです。
だから、いま問われているのは「AIに仕事を奪われるか」ではありません。「AIを使いこなして、より本質的な仕事に時間を振り向けられるか」です。これは、これから業界に入る人にとっても非常に重要な視点だと思います。
地政学リスクは、なぜ経営の中心課題になったのか
——もう一つ、大きなテーマとして地政学リスクがあります。
山越さん:はい。これは一部のグローバル企業だけの話ではなくなっています。コロナ禍でサプライチェーンの分断を経験し、その後も米中対立、ロシア・ウクライナ紛争、中東情勢、経済安全保障政策の強化が続いたことで、多くの企業が「想定外を前提に経営する」必要に迫られました。
KPMGの調査でも、リスク管理体制の見直しやシナリオ分析を重要施策と見る企業がかなり多い。以前は危機管理部門のテーマだったものが、いまは経営企画や事業戦略そのもののテーマになっています。
——コンサルは、具体的に何を支援しているのでしょうか。
山越さん:大きく二つあります。
一つは、リスクを事前に可視化して備えること。たとえばERM(全社的リスク管理)の整備、サプライチェーンの脆弱性分析、インテリジェンス機能の構築ですね。
もう一つは、何か起きたときに被害を抑え、早く立て直すことです。いわゆるレスポンスとレジリエンスの支援です。
このような中で、中期経営計画の考え方まで変わってきています。3年間や5年間の経営計画をつくって、その通りに進めればいい時代ではなくなりました。外部環境が大きく動く以上、長期ビジョンを持ちながら、毎年機動的に見直していく必要があります。KPMGが提案しているような「長期と単年を行き来するマネジメント」は、その象徴だと思います。地政学リスクは、経営の周辺論点ではなく、経営の時間軸そのものを変えているんです。
「日系グロースファーム」は何が違うのか
——プレーヤー構造の変化という意味では、新興の日系ファームの存在感も大きいですね。
山越さん:かなり大きいです。外資や大手ファームで経験を積んだ人材が独立し、DXやAI、業務改革の実行支援を武器に急成長しています。共著者の渡辺秀和氏が代表を務めるコンコードエグゼクティブグループでは、このような成長著しい新興の日系ファームを「日系グロースファーム」と呼んでいます。
従来のコンサルは「戦略を描く」イメージが強かったのですが、日系グロースファームは「現場に入り込んで成果を出す」ところに強みを持つケースが多い。いまの市場環境と非常に相性がいいんです。
ノースサンドやDirbatoのように、設立から十年足らずで1,000人規模まで拡大する会社も出てきましたし、ライズ・コンサルティングのように上場して存在感を高める企業も出てきました。業界の中に、確かに新しい層ができています。
——外資系ファームとの違いは、どこにありますか。
山越さん:一つはコスト構造です。日系は本社へのロイヤリティ負担がないですし、為替の影響も相対的に小さい。価格設定の柔軟性があるので、大企業だけでなく中堅・中小企業にも入りやすい。
もう一つは意思決定の速さです。サービスラインの立ち上げ、採用、提案の方向修正など、成長企業ならではの機動力があります。
また、転職先として見ても、彼らは単に"新しい会社"というだけではありません。報酬水準が高い会社も多いですし、それ以上に、会社づくりや新規サービスの立ち上げに近い距離で関われる可能性があります。
昔は「外資大手に入ること」が王道に見えたかもしれませんが、いまはそれだけではありません。キャリアの選択肢が確実に増えています。
これから業界を見る人が持つべき視点
——こうしたホットトピックスを踏まえると、転職希望者は何を見ておくべきでしょうか。
山越さん:今回の話を踏まえると、3つあると思います。
第一に、そのファームがAIをどう扱っているかです。顧客向けの提案テーマとして語るだけなのか、自社の働き方や知見蓄積まで変えているのか。ここは今後かなり大きな差になります。
第二に、不確実性の高いテーマにどう向き合っているかです。地政学、規制、サプライチェーンのような領域で、構想だけでなく実装まで入っているファームは強い。
第三に、拡大している理由をきちんと見ることです。DXが強いのか、AIが強いのか、業界特化なのか、あるいは組織の機動力なのか。伸びている会社でも、その中身はかなり違います。
——人気や知名度だけでは、見誤る可能性があるということですね。
山越さん:そうですね。いまのコンサル業界は、AIを使いこなし、不確実性を扱い、構想だけでなく実装までやり切れるような総合力が問われています。転職を考える人は、会社の名前だけでなく、「このファームは何で勝とうとしているのか」「自分はその中で何を担いたいのか」を見たほうがいいと思います。
ホットトピックスだけを拾っても、各社の立ち位置や違いまではなかなか見えません。そこまで含めて理解すると、業界の見え方はかなり変わるはずです。
【編集部より】さらに深く業界を理解したい方へ
今回伺った内容をさらに詳しく知りたい方へおすすめしたいのが、『コンサル業界大研究(第9版)』だ。AI時代を迎えた業界構造の変化から主要ファームの戦略、仕事内容の実態、コンサル卒業後のキャリアパス、内定を勝ち取るための選考対策まで、初学者でも十分に理解できるよう噛み砕いて解説。さらに、BCGをはじめとするトップファーム6社の幹部と著者による対談を通じ、AI時代に求められるコンサルタント像を考察している。
業界理解を一段深めたい方は、ぜひご覧いただきたい。
著者プロフィール
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渡辺 秀和(わたなべ・ひでかず) コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役CEO/一橋大学 客員教授 一橋大学商学部卒。三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサルティング部門へ新卒入社。同社最年少でプロジェクトリーダーに昇格し、多数の新規事業開発プロジェクトを手がける。 2008年、コンコードエグゼクティブグループを設立。同社は、マッキンゼーやBCGをはじめとするコンサルティングファーム、投資銀行・PEファンド、スタートアップの経営幹部、起業家などへ、数万人規模のビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきた。 2017年には、東京大学にて学部3・4年生、大学院生を対象とした正規科目「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクターを務め、授業設計と講義を担当。また、キャリア教育事業を担うコンコードアカデミーの代表取締役に就任し、学生へキャリア設計の知見を伝えるサイト「CareerPod」を開設した。2025年、一橋大学 客員教授に就任。キャリア設計の理論と実践知を体系化した授業を開講し、次世代リーダーの育成に取り組んでいる。 「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門にて初代MVP 受賞。 主な著書に『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社)、『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)などがある。 コンコード運営サイト:「コンサル&ポストコンサル転職」 |
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山越 理央(やまこし・まさお) コンサルティングファーム研究会 代表/一般社団法人クリエイティブデザインネットワーク 理事 東京大学公共政策大学院修了。多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム修了。 プライスウォーターハウスクーパース(現 PwCアドバイザリー)に新卒入社。大企業の事業再生業務を推進し、V字回復に向けた経営改革のビジョンや再成長戦略、経営再建計画の策定を支援してきた。 現在は、国内最大規模のシンクタンクに籍を移し、戦略コンサルタント(プリンシパル)として社会課題解決に向けた企業の経営ビジョンや経営戦略の策定、新規事業開発や事業開発組織の設計などを幅広く支援している。また、デザインやアート、クリエイティブの専門家として、政府のデザイン政策やデザイン経営の立案や推進、グッドデザイン賞の海外への制度輸出、企業の経営改革や事業開発にデザイン思考や感性、美意識を取り入れるコンサルティングサービスや経営者/幹部向けの能力開発等を主導。 コンサルティング業界の現在を日本で最も広く深く知る専門家として、業界の現役コンサルタントや内定者で構成される「コンサルティングファーム研究会」を主宰。研究会では、コンサルティング業界の最新動向をリアルタイムで把握し、業界の未来に関する研究や情報発信を行っている。 |

