コンサルファームの採用要件、その実態とは——『コンサル業界大研究(第9版)』著者・渡辺秀和氏に聞く③

コンサル業界への転職を考える際、多くのビジネスパーソンがまず手に取る定番書『コンサル業界大研究』。2026年1月に発売された第9版は、東京大学生協で2026年2月にランキング1位(本郷書籍部 就職・公務員部門)を記録するなど、名門大学生からも高い注目を集めている。著者であるコンコードエグゼクティブグループCEOの渡辺秀和氏に、コンサルティングファームにおける中途採用の最新動向を伺った。
▶ 第1回:拡大するコンサル業界、その本当の変化とは(山越理央氏)
▶ 第2回:コンサル業界のホットトピックス最前線(山越理央氏)
株式会社コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役社長CEO/一橋大学 客員教授。『コンサル業界大研究 第9版』(産学社)著者。「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門 初代MVP。
※詳しいプロフィールは記事末尾に掲載
・業界全体が大きく成長。加速し続ける、コンサル未経験者の積極採用
・対象年齢の幅が拡大。30代後半〜40代の未経験採用も珍しくない
・医師、公務員、研究者も。さまざまな経験職種・業種・スキルの人材を採用
・様変わりする、学歴・出身大学をめぐる採用基準
・コンサルへ転職するために、MBAは取得したほうがよいのか
・難関資格の取得は、コンサル転職において有利に働くのか
・気になる、英語力の「必要水準」
・コンサル転職の難易度を大きく左右する、人材市場の「市況」
・【編集部より】さらに深く業界を理解したい方へ
・著者プロフィール
業界全体が大きく成長。加速し続ける、コンサル未経験者の積極採用
——はじめに、コンサルティング業界の中途採用の全体像について教えてください。ここ数年で大きな変化があったとよく耳にしますが、実態はどうでしょうか。
渡辺さん:以前から積極採用でしたが、近年、一段と活発化しています。
コンサルティング業界はもともと、未経験者を積極的に中途採用する文化を持っています。「ポテンシャル採用」という言葉がよく使われますが、入社後に育てることを前提に、応募者の素地や適性を重視してきたわけです。その傾向は今も変わらず、中途採用全体に占める未経験者の割合は8割程度と言われています。
近年は業界全体の規模拡大に伴い、採用活動がさらに活発化しています。プロジェクトの需要が増し、より多くの人材が必要になっているからです。それによって、採用の対象が広がり、年齢・職歴・学歴といった従来の基準の緩和が進んでいます。
対象年齢の幅が拡大。30代後半〜40代の未経験採用も珍しくない
——「コンサル転職は若くないと難しい」というイメージがあります。年齢の観点からは、実際のところどうでしょうか。
渡辺さん:かつては、未経験者の採用対象は20代から30代半ばまでが一般的でした。しかし今は、その幅が明確に広がっています。コンサル未経験であっても、30代後半、あるいは40代での入社も珍しくなくなってきました。
背景には、コンサルティングの仕事そのものの変化があります。かつては「課題の発見と解決策の提案」がコンサルタントの主な役割でしたが、いまは「解決策の実行支援」まで求められることが当たり前になってきました。その結果、特定業界の業務プロセスに精通していることや組織マネジメントの経験がより重視されるようになり、採用の幅が自然と広がっているのです。
また、特定のテーマに関する専門的な知見・スキルを持つ方も、コンサルティングファームから強く求められています。中でも、AI・DXやサステナビリティといった新領域の知見をもつ人材のニーズが急速に高まっています。
このような潮流の中で、高度な専門性や豊富なマネジメント経験を持つ30代後半以上の方にも積極的に門戸を開くようになってきています。
医師、公務員、研究者も。さまざまな経験職種・業種・スキルの人材を採用
——未経験でコンサルへの転職に成功する人というと、大企業の経営企画出身者や外資系のビジネスパーソンといったイメージがあります。実際にはどういった方が採用されているのでしょうか。
渡辺さん:確かに経営企画やM&A、マーケティングの経験者も引き続き採用されていますが、ほんの一部に過ぎません。実際には、はるかに多様なバックグラウンドを持つ方々が多数採用されています。
日系・外資系を問わず、大企業から中小企業、スタートアップまで、実にさまざまなキャリアの方がコンサル業界に進んでいます。さらに、医師や公務員、大学の研究者といった、一般的な企業での勤務経験がない方もコンサルタントとして活躍しています。とりわけ20代〜30代半ばまでの方に対しては、業界の門戸は非常に広く開かれていると言ってよいでしょう。
一方で、先ほども申し上げたように、30代後半以上の方の未経験者採用も増加しています。M&AやDX・IT関連など、ファームが強化したいテーマでの実務経験があれば、40代で転職を実現している例も珍しくありません。さらに近年では、AI関連や地政学リスク、サステナビリティ領域など、新たなテーマに精通する方々も積極的に採用されています。いずれのケースも、「その分野で即戦力となれる高度な専門性や実務経験」が、ファームから高く評価されているのです。
様変わりする、学歴・出身大学をめぐる採用基準
——コンサル業界は学歴重視というイメージもあります。出身大学によって、選考に大きな差がつくのでしょうか。
渡辺さん:他の業界と比べると、確かにコンサル業界には学歴が重視される傾向が残っています。特に外資系の戦略系ファームでは、東大・京大・一橋・東京科学大(旧 東工大)・早慶・阪大・名大といった最難関大学の出身者を中心に採用してきました。高い思考力と分析力が求められるため、入試難度の高い大学の出身者が一定評価を受けやすいのは事実です。
ただし、ここ数年で状況は変化しています。東京理科大学、明治・青山・立教・同志社・立命館といった有名私立大学の出身者を採用する外資系戦略ファームも増えており、門戸は大きく広がっています。
アクセンチュアやBig4(デロイト、PwC、KPMG、EY)といった総合系ファームでは、さらにその傾向が顕著です。スキルや専門性次第では、大卒の資格を持たない方を採用するケースもあります。「学歴」という一点だけで諦める必要はないというのが、現在のコンサル転職の実態です。
コンサルへ転職するために、MBAは取得したほうがよいのか
——コンサルへの転職を目指してMBAを検討する方も多いと思います。MBA取得はどの程度有利に働くのでしょうか。
渡辺さん:ハーバードやスタンフォードなど、世界的に著名なMBAプログラムの修了者は高く評価されます。転職時にアドバンテージとなるのは間違いありません。
ただし、コンサル転職においてMBAの取得は「必須条件」ではありません。すでに名門大学を卒業している方にとっては、長期間の留学と多額の費用をかけてMBAを取得するよりも、選考対策に集中するほうが近道になるケースが多いでしょう。
もちろん、MBAには経営理論の体系的な習得やグローバルなネットワーク形成といった素晴らしい価値があります。ただ、コンサル転職という文脈に限って言えば、MBAはあくまでも「あると有利な要素のひとつ」という位置づけです。迷った場合は、まず転職活動に取り組んでみて、うまくいかなければMBA留学を経て再挑戦するという方も多く見られます。
難関資格の取得は、コンサル転職において有利に働くのか
——公認会計士や中小企業診断士などの難関資格を取得することで、コンサルへの転職が有利になるという考え方についてはどうお考えでしょうか。
渡辺さん:財務アドバイザリー(FAS)や会計・税務系のコンサルティングポジションであれば、公認会計士やUSCPA、税理士といった資格は確かにアドバンテージになります。資格取得を通じて得た専門知識を即戦力として活かせますから、採用においても高く評価されやすいでしょう。
ただし、経営戦略やマーケティング、業務改革、新規事業開発といったテーマを扱うファームやポジションでは、これらの資格の有無はあまり重視されません。むしろ重要なのは、課題を構造的に捉えて仮説を立て検証し、解決策を導き出す「問題解決力」、相手の立場や感情に配慮しながら信頼関係を築く「リーダーシップ」、関係者を上手に巻き込む「コミュニケーション力」なのです。
コンサル転職を目的として資格取得に何年も費やすのは、率直に言って遠回りです。それよりも、ケース面接の対策やロジカルシンキングの訓練に時間を投じるほうが、はるかに選考突破に直結するでしょう。
気になる、英語力の「必要水準」
——外資系のファームに転職するには高い英語力が必要というイメージがあります。実際のところ、英語力はどの程度求められるのでしょうか。
渡辺さん:グローバル案件の増加を背景に、英語力への需要は確実に高まっています。特に外資系ファームでは、高度なビジネス英語力を前提条件とするケースもあります。マッキンゼーはその代表例と言えます。
ただし、すべてのファームで英語が必須かというと、そうではありません。多くのコンサルティングファームでは、英語力を「MUST要件」としていないのが実態です。入社前の段階で英語が得意でなくても、十分に挑戦できる余地があります。実際、入社後に英会話講座や海外研修の支援制度を設けて、スタッフの語学力向上をサポートしているファームも多いのです。
英語力は間違いなく武器になりますが、まずは「考える力」と「伝える力」を磨くことが肝要であり、コンサル転職への最短ルートと言えるでしょう。
コンサル転職の難易度を大きく左右する、人材市場の「市況」
——同じファームの選考でも、タイミングによって難易度が変わると聞きます。人材市場の状況は、コンサル転職にどの程度影響するのでしょうか。
渡辺さん:非常に大きく影響します。例えば、リーマンショック直後の2008〜2009年には、外資系戦略ファームの出身者でさえ他ファームへの転職が困難だった時期がありました。
外資系戦略ファームにおける中途採用の内定率は、おおむね0.5〜1%程度と言われています。ただ、現在のような採用拡大期には内定のハードルが下がる傾向があり、業界未経験者にとっては好機と言えるでしょう。
とはいえ、戦略系ファームへの転職が「超難関」であることに変わりはありません。キャリアアップを視野に入れているなら、転職エージェントと継続的に情報交換を行い、転職市場の「市況」の変化を把握しておくことをお勧めします。「好況期に動き、不況期は動かない」というのが、キャリア形成の基本原則です。
【編集部より】さらに深く業界を理解したい方へ
今回伺った内容をさらに詳しく知りたい方へおすすめしたいのが、『コンサル業界大研究(第9版)』だ。AI時代を迎えた業界構造の変化から主要ファームの戦略、仕事内容の実態、コンサル卒業後のキャリアパス、内定を勝ち取るための選考対策まで、初学者でも十分に理解できるよう噛み砕いて解説。さらに、BCGをはじめとするトップファーム6社の幹部と著者による対談を通じ、AI時代に求められるコンサルタント像を考察している。
業界理解を一段深めたい方は、ぜひご覧いただきたい。
著者プロフィール
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渡辺 秀和(わたなべ・ひでかず) コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役CEO/一橋大学 客員教授 一橋大学商学部卒。三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサルティング部門へ新卒入社。同社最年少でプロジェクトリーダーに昇格し、多数の新規事業開発プロジェクトを手がける。 2008年、コンコードエグゼクティブグループを設立。同社は、マッキンゼーやBCGをはじめとするコンサルティングファーム、投資銀行・PEファンド、スタートアップの経営幹部、起業家などへ、数万人規模のビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきた。 2017年には、東京大学にて学部3・4年生、大学院生を対象とした正規科目「キャリア・マーケットデザイン」のコースディレクターを務め、授業設計と講義を担当。また、キャリア教育事業を担うコンコードアカデミーの代表取締役に就任し、学生へキャリア設計の知見を伝えるサイト「CareerPod」を開設した。2025年、一橋大学 客員教授に就任。キャリア設計の理論と実践知を体系化した授業を開講し、次世代リーダーの育成に取り組んでいる。 「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門にて初代MVP 受賞。 主な著書に『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社)、『ビジネスエリートへのキャリア戦略』(ダイヤモンド社)などがある。 コンコード運営サイト:「コンサル&ポストコンサル転職」 AI時代のコンサル業界動向を解説:PIVOT「2026年のコンサル」 |
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山越 理央(やまこし・まさお) コンサルティングファーム研究会 代表/一般社団法人クリエイティブデザインネットワーク 理事 東京大学公共政策大学院修了。多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム修了。 プライスウォーターハウスクーパース(現 PwCアドバイザリー)に新卒入社。大企業の事業再生業務を推進し、V字回復に向けた経営改革のビジョンや再成長戦略、経営再建計画の策定を支援してきた。 現在は、国内最大規模のシンクタンクに籍を移し、戦略コンサルタント(プリンシパル)として社会課題解決に向けた企業の経営ビジョンや経営戦略の策定、新規事業開発や事業開発組織の設計などを幅広く支援している。また、デザインやアート、クリエイティブの専門家として、政府のデザイン政策やデザイン経営の立案や推進、グッドデザイン賞の海外への制度輸出、企業の経営改革や事業開発にデザイン思考や感性、美意識を取り入れるコンサルティングサービスや経営者/幹部向けの能力開発等を主導。 コンサルティング業界の現在を日本で最も広く深く知る専門家として、業界の現役コンサルタントや内定者で構成される「コンサルティングファーム研究会」を主宰。研究会では、コンサルティング業界の最新動向をリアルタイムで把握し、業界の未来に関する研究や情報発信を行っている。 |

