専門エージェントが語る|優秀でも失敗する?PEファンド転職の落とし穴と対策【後編】
投資銀行や戦略コンサルティングファーム出身者にとって、有力なネクストキャリアであるPEファンド。しかし、輝かしい学歴・経歴を持つ人材でも活躍できるとは限らず、転職後にミスマッチを感じるケースも少なくない。
PEファンド転職には、どのような落とし穴があり、どう対策すべきなのか。タイグロンパートナーズの信藤啓吾氏に解説していただいた。
※内容や肩書は、取材を行った2026年4月時点の情報です。
<Profile> 信藤 啓吾(しんどう・けいご)
タイグロンパートナーズ株式会社 取締役兼ヘッドハンター。麗澤大学外国語学部卒業、Salem State Universityカウンセリング心理学修士。外資系大手人材サーチファームであるロバートウォルターズで金融マーケット専門のリクルーティングに従事後、タイグロンパートナーズの前身である英国アカマイフィナンシャルマーケッツ日本支社の立ち上げに参画。23年にわたり、投資銀行や不動産ファンド、PEファンド、一般事業会社のM&A・戦略企画部門などへの転職を支援している。Youtubeでも出演多数。
優秀でも活躍できるとは限らないPEファンドの難しさ
前編でもご紹介したように、現在のPEファンド市場は非常に活況で、採用活動も活発になっています。特に、投資銀行や戦略コンサルティングファーム出身者はニーズが大きいです。
一方で、「優秀なら誰でも活躍できる」と言えないのがPEファンドの難しさです。業務では、現場への配慮や調整に加え、「どの企業に投資し、どう価値を高めるか」という視点が求められます。さらに、評価や報酬は個人の成果だけでなく、ファンド全体のパフォーマンスや体制にも左右されます。
こうしたギャップから、経歴としては申し分のない人材でも活躍できなかったり、早期に離職してしまったりするケースは少なくありません。
今回の後編では、優秀でも陥りやすいPEファンド転職の落とし穴と対策について整理します。
「上から目線」が招く典型的な失敗パターン
学歴・経歴が十分な人でよくある失敗として、「上から目線で周囲が動かなくなる」というパターンがあります。これは、候補者側からもPEファンド側からもよく聞く話です。
「自分が回している」という意識が招く姿勢
PEファンドでは、弁護士や会計士から投資対象企業の社員まで、幅広い人とコミュニケーションを取って企業のバリューアップを目指します。自分一人の力ではなく、むしろ周囲の働きがなければ企業の価値向上は実現しません。
しかし、PEファンドに転職する人の中には「自分が回すのだから」という意識で周囲に上から目線で接してしまう人が一定数います。そうなると、周りの人間はモチベーションが上がりません。指示に従って業務は進めるものの、進捗は遅れがちです。
こうした状況で上司が進捗の遅れを確認しても、担当者は「自分は指示を出している」「周囲が動いていない」と主張します。やがて上司のもとにクレームや担当者変更の依頼が届き、問題が発覚するのです。
結果として、担当者は新規案件だけ回されるようになり、本人は「恣意的に外された」と転職を考え始めるパターンが少なくありません。
求められるのは「オールラウンダー」
PEファンドで評価され、昇進していく人は、単に頭が良い人や数字に強い人ではありません。さまざまな関係者を巻き込みながら、プロジェクトを前に進められる「オールラウンダー」としての力が求められます。
実際に活躍している人は、投資銀行や弁護士、金融機関などから「まずあの人に相談してみよう」と思われる存在です。日頃から関係性を築き、いざというときに周囲が自然と動いてくれる状態を作っています。
こうした人は決して上から目線ではなく、相手に応じたコミュニケーションを取りながら、協力を引き出すのがうまいです。エージェントに対しても、腰を低くして接することができます。
一方、「正しいことを言っているのに周囲が動かない」という人は、関係構築や働きかけの部分でつまずいている傾向があります。たとえ上から目線でなくても「指示のしかたが雑」といった課題を抱えており、その姿勢は転職支援の段階でも見えるものです。
▼ 業界によって求められる「仕事のスタンス」は異なる
仕事の進め方や求められる役割は、業界によって大きく異なるものです。前提が変われば、同じ言動でも評価のされ方は大きく変わります。
たとえば、投資銀行では「案件を成立させて手数料を得ること」が主な役割です。その後の企業価値については、直接的な責任を負わないケースも少なくありません。
一方、PEファンドは企業のバリューアップからExit(投資先の売却やIPO)まで責任を持つ必要があり、経営陣や現場と長期的に関係を築いて成果を出していくことが求められます。
こうした違いから、投資銀行のような環境では、関係構築や気配りといった要素が評価されにくい傾向があります。結果として、転職後に周囲への配慮を強く意識しないまま仕事を進めてしまい、 悪意がなくとも「上から目線になっている」ということが起きやすいのかもしれません。
実は多い「解像度の低さ」によるミスマッチ
もう一つ、優秀な人でもよく見られる問題が「解像度の低さ」です。ここでいう解像度とは、PEファンドの仕事内容や自分がやりたいことを「どれだけ具体的に理解できているか」を指します。
20代の投資銀行出身者を中心に、業界・企業の研究をせず、投資先やバリューアップのイメージも描かず転職相談に来る人が一定数います。
こうした人の多くは「とにかく儲けたい」「企業経営者になりたい」といった希望を持って相談に来ます。一方で、夢の実現に向けたキャリアパスは描けていないことが多いです。「友人がPEファンドに転職したから」とブランド競争に近い感覚で志望している候補者もいます。
PEファンドの特性を理解し、「どのような企業に投資したら儲かりそうか」まで考えられないと、面接での深掘りに対応しにくいです。
また、たとえ転職が成功しても、PEファンドは決して楽な環境ではありません。業務は想像以上に地味で、モデリングや投資先のハンズオン支援など、泥臭い実務が中心です。解像度が低い状態では理想と現実のギャップが大きくなり、ミスマッチにつながります。
解像度が高い人は、志望先を具体化できている
ここで、私が少し前に相談を受けた候補者の話を紹介しましょう。
この候補者は、行きたいPEファンドをピンポイントで指定してきました。ブランド力の強い大手ではなく、リテールコンシューマー系の案件に特化したファンドです。もともとコンサルタントとしてリテールコンシューマー系の企業を支援しており、それがとても面白かったこと、志望のファンドであれば得意な英語力も活かせることを理由に挙げていました。
このように条件が絞られていると、転職に向けた動きはスムーズです。エージェント側は個社に絞って対策を伝えられますし、候補者も志望動機が明確なので選考通過率が上がりやすいです。また、候補者自身が個々のファンドの特性を理解している分、転職後のミスマッチのリスクも低い傾向があります。
一方、「とにかくPEファンドに行きたい」という状態ではファンドごとの違いが分からず、面接に進んでも落ちやすいですし、転職できてもミスマッチになるリスクが高いです。
▼ 出身業界によって起きやすいミスマッチも異なる
転職の失敗で多いパターンは出身業界によっても異なり、たとえば「業界研究ゼロ」「ブランド力で転職」というのは、学歴・経歴の良い投資銀行出身者に多いケースです。
一方、コンサル出身者ではバリューアップ業務とのミスマッチが起こりやすいです。戦略系コンサルティングファームでは、戦略立案や業務改善など「構想を描く仕事」が中心ですが、PEファンドでは現場に入り込み、実際に数字を動かしていきます。そのため、「思ったより地味で実行寄り」「自分がいなくても回る仕事に感じてしまう」といったギャップが生じやすいです。
また、商社出身者では、経験の「粒度」の違いでミスマッチが生じやすいです。商社は出資とモニタリングが中心である一方、PEファンドは投資先に深く入り込み、事業改善や再成長を直接ドライブしていきます。そのため、関与の深さや意思決定への入り方の違いが大きく、入社後に苦労する人が多くいます。
ファンド起因で起こるミスマッチにも注意が必要
PEファンド転職では、本人の姿勢に問題がなくても、所属するファンドによって想定とのギャップが生じるケースがあります。なかでも、報酬の大きな要素であるキャリーをめぐるギャップは、離職のきっかけになることが少なくありません。
ケース①ファンドのパフォーマンスが低迷し、キャリーが出ない
そもそもキャリーは、投資先の売却やIPOといったExitのタイミングで初めて発生する成功報酬(投資利益の分配) です。そのため、報酬は個別の案件ではなく、ファンド全体のパフォーマンスによって大きく左右されます。
私が候補者から受けた相談では、こんなケースがありました。
その人が在籍していたファンドはパフォーマンスが振るわず、本人の働きが十分でもキャリーが出ない状況が続いていました。「次にキャリーをもらえるのは、新たに行った投資が回収される6〜7年後くらい。その頃には40歳を過ぎているので、その間ずっとキャリーなしで働くのは淋しいです」と話していました。
このように、個人として適切に業務をこなしていても、ファンド全体の成績やタイミングによって報酬が大きく変わることがあります。結果として、「思っていたよりも報われない」と感じ、他のファンドへの転職を検討する人も一定数います。
ケース②キャリー設計が不透明で、想定よりも少ない
「転職してふたを開けたらキャリーが少なかった」というのも、よくトラブルになる事例です。
キャリーの配分はあらかじめ明確に開示されることが少なく、口頭で説明されるケースがほとんどです。面接や入社時でも「パフォーマンスが出ているので心配いらない」といった説明にとどまり、具体的な配分は示されない傾向があります。
さらに、キャリーはパートナー層に厚く配分されることが多く、ファンドによってはジュニア層への配分がごく限定的です。
結果として、働きに対してキャリーが見合わず不満を覚え、転職を後悔するケースがあります。
転職でミスマッチを防ぐために確認すべきポイント
ここまで見てきたように、PEファンド転職では個人の資質だけでなく、志望先の理解不足やファンド側の要因によってミスマッチが生じるケースも少なくありません。
こうしたギャップを防ぐためには、転職前の段階で各ファンドの実態をできるだけ具体的に把握しておくことが重要です。ここでは、ファンド選びの際に確認しておきたいポイントを整理します。
まずは実績と規模を確認する
ファンド選びで大きく外さないためには、まずそのファンドが「これまでにどの程度の実績を積み重ねてきたか」を見ると良いでしょう。
具体的には、「過去に複数のファンドを継続的に運用しているか(号数でいうと6〜7号程度)」「一定規模の投資資金を集めているか」が一つの目安になります。800億〜2,000億円程度の規模であれば、投資先の分散や運用体制の面で安定しているケースが多いです。離職も、たまにはあっても一気に大勢のメンバーが抜けることはないでしょう。
ただし、こうした規模や実績のあるファンドは採用ハードルも高く、誰でも選べるわけではありません。そのため、自身の経験や志向に応じて、ミッドキャップのファンドなども含めて検討することが現実的です。
パフォーマンスとファンドレイズを確認する
ファンド選びでは、過去の実績だけでなく「今のファンドがうまくいっているか」「次の投資のための資金が確保されているか」をあわせて確認することが重要です。
まず、現在運用中のファンドのパフォーマンスは、キャリーの有無に直結します。過去の投資案件が最終的にどのようにExitしているか、そもそも継続的にExitできているかといった点は、重要な確認ポイントです。
また、投資案件の成否のバランスも一つの目安になります。たとえば6件程度の投資で1件の失敗であれば良いかもしれませんが、2〜3件失敗している場合はファンド全体のパフォーマンスに影響している可能性もあります。
あわせて、ファンドレイズ(次の投資に向けた資金調達)が進んでいるかも重要です。ファンドレイズが順調であれば、次の投資機会が確保され、将来的にキャリーを得られる可能性も見込めます。基本的にはファンドレイズができてから採用を行うものですが、なかには早めに採用活動を始めるPEファンドもあります。
こうした現在の状況は、公開情報だけでなく、業界ニュースや関係者からの話を通じて把握できることもあります。
パートナーや組織の安定性を見極める
ファンド選びにおいては、パートナーや組織の安定性といった「内側の状況」も重要な判断材料です。これらは表から見えにくいものの、実際の働きやすさや報酬に大きく影響する要素です。
まず確認したいのが、パートナーやマネジメント層の定着状況です。PEファンドは投資家からの信頼をもとに成り立つビジネスであるため、通常は中核メンバーが長期間在籍しているものです。パートナーやMDクラスの入れ替わりが激しい場合は、組織運営や意思決定の面で何らかの問題を抱えている可能性があります。
キャリーの配分にも注意が必要です。前述のように、事前に明確な条件が提示されないケースが多いですが、「パートナーがキャリーを総取りしている」といった噂が回っていることもあります。こうした情報が出ている場合は、一度立ち止まって見直した方がよいでしょう。
さらに、Exitの内容にも目を向けると、そのファンドの実力が見えてきます。たとえば、事業会社への売却やIPOではなく、他のPEファンドへの売却が多い場合は要注意です。「十分に価値を高められているのか」という観点で、慎重に見ておく必要があります。
これらの情報は公開されていないことも多いため、エージェントや業界関係者から情報収集しておくと安心です。離職率や退職理由、パートナーの評判など、表に出にくい情報も含めて確認することで、ミスマッチを防ぎやすくなります。
まとめ|PE転職は「準備の質」で結果が変わる
PEファンド転職では、単にスキルや経歴が優れているだけでなく、「個人の解像度」と「ファンドの見極め」の両方が重要です。
なかでも重要なのが、自分がどのような投資領域やファンドに関わりたいのかを具体化し、そのうえで各ファンドの実態を把握することです。パフォーマンスや組織の状況といった情報は表から見えにくい部分も多く、一定の情報収集を前提に意思決定することが求められます。
こうした準備ができていると、エージェントからも個社に応じた具体的なアドバイスを受けやすくなり、選考対策や意思決定もスムーズに進みます。結果として、ミスマッチを防ぎながら納得感のある転職につながりやすいです。
当社(タイグロンパートナーズ)には、私を含めて金融業界に特化したスタッフが多数いますので、PEファンドの情報や対策について知りたい場合はぜひ気軽に相談してください。
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